58話 おかわりだ、蝉原勇吾。あと1兆年。頑張ってみよう。――たぶん、意味ないけど。
58話 おかわりだ、蝉原勇吾。あと1兆年。頑張ってみよう。――たぶん、意味ないけど。
(あと1兆年、とことん追い詰めて、積ませて……そして、実践での爆発的な覚醒に期待……それ以外に、道はないか……)
そう結論を出してから、ソルは、蝉原の目を見つめ、
「――『2兆年で終わり』だと、いつから錯覚していた?」
「…………は?」
「おかわりだ、蝉原勇吾。あと1兆年。頑張ってみよう」
「……冗談……だろう?」
「冗談を言っているように見えるか?」
「言っているように見えるね。テンプレを使っているし、口調も軽い。……だから、ちょっとしたギャグとしか思えない。これだけ地獄を見てきて、さらに、もう1兆年だなんて、そんな暴挙が許されるはずがない……ていうか、そんなことする意味がない。俺は、もう、セン君を超えている。もういいだろう。俺は――」
「蝉原勇吾」
そこで、ソルは、
蝉原の目をジっと見つめて、
「センエースは……」
色々と、考えた上で、
「5兆年を積んだ」
『事実』を口にする。
『調整された事実』だけでも、ありえない数字だったため、
蝉原は、目を丸くして、アホウのように口を開き、
「……は?」
豆鉄砲をくらった鳩の蝉原に、
ソルは、たんたんと、
「正確に言えば、5兆6000億年を積んだ」
そこで、ソルは、アイテムボックスから、スマホ型のアイテムを取り出して、
その液晶画面を、蝉原に向けて、
「蝉原、これが、5兆6000億年を積んだセンエースだ」
そう言って、実際に、『5兆6000億を積んだ状態』の『圧倒的な強さを魅せつけているセンエース』の映像をみせる。
それを見た蝉原は、
「……う、嘘だ……捏造だ……だって無理だから……自力で、5兆年なんて……そんなこと……無理だ……俺には分かる。この地獄に……本当の自力だけで耐えるなんて、絶対に……無理だ!」
「事実だ、蝉原勇吾。受け入れろ」
「……」
「貴様は相当に強くなった。貴様は才能だけで言えば、センエースよりも上だ。努力もした。お前は強くなった。お前の強さは本物だ。しかし……流石に……『5兆年を積んだセンエース』よりは……間違いなく下だ」
「本当に……積んだのか? 5兆も……いや、もちろん、さっき言ったように、彼が、7000億を積んだのは知っていたが、人間の器を考えれば、それで限界のはずで……そこから、どんなに多く積んだとしても1兆か2兆がせいぜい、……それが、命の限界だと……俺は、身をもって……だから……」
混乱して、何を言っているのか、いまいちわからなくなっている蝉原に、
ソルは、
「……あと1兆年を積んで、器を磨き上げろ、蝉原。そうすれば、センエースに……」
そこまで言って口をつぐむソル。
『そうすればセンエースに勝てる』と嘘をついても良かったのだが、そこまでの大嘘つきになる度胸はなかった。
それに、最後まで言い切らなくとも、
蝉原はちゃんと誤解してくれた。
「あと1兆年か 確かに これを見る限り、そのぐらいは必要かな」
 




