46話 「助けて」「お前が俺をボスケテ」。
46話 「助けて」「お前が俺をボスケテ」。
「……魂の状態では、イメージがわかないか……だったら」
悪夢バグは、そうつぶやくと、盛大に魔力を練り上げて、
サーシャ・ラインの魂に注いでいく。
すると、『火の玉』状態だった魂が、
グニャリグニャリと形を変えて、
最終的には、人型の形状に収まった。
ほとんど元のすがたに戻ったサーシャは、
血の涙を流しながら、
センに向かって、
「……た、助けて……」
と、救いの言葉を投げかける。
少年誌に出てくるヒーローだったら、
もはや、この時点で、他に選択肢を失い、
彼女を救う道具に成り下がるだろう。
ところがどっこい、ここにいる主人公は格が違った。
「お前が、俺を助けろ!」
掟破りの『助けて返し』を決め込む、クールな主人公。
センが『救援』に応じるのは、『抱きたい女』の時だけ。
それ以外の声に耳を傾ける気は一切ない。
センは、さらに続けて、
「死んでいるだけのお前と違って、こっちは、大量の害虫と悪戦苦闘してんだよ! そのぐらい、見て分かれ! こっちは忙しいんだ! 楽勝で殺しているように見えているかもしれないが、一撃一撃に魂を込めているから、どんどん疲弊していっているんだよ! そのしんどい作業を、ここから、数時間単位でやっていくんだぞ! わかるか! 今の俺は、死ぬほどしんどいんだよ! 俺の根性がハンパねぇから、どうにか出来そうってだけで、並みの人間だったら、そのあまりのしんどさに、心折れて当然って状況なんだ! だから、助けてくれや! めちゃくちゃしんどいから、回復魔法とかかけてくれや!」
虫を殺し続けながら、
いかに『今の自分が大変であるか』を語りつくす。
「つぅか、よぉお! てめぇ、確か10歳だろ?! こっちは3歳だぞ! てめぇ、7歳も年上だろうがぁ! なに、ガキに頼ってんだ、お姉ちゃんよぉお! 何が『助けて』だ! 人生、ナメんなよ!」
怒声をあげる。
ひたすらに正論を口にする。
「どうした! なんか言ってみろ! お前に、俺を助ける気はあるのか?! ――ないだろ?! 俺を助ける気ゼロのやつを、なんで、俺が助けないといけないんだ! 理屈が通ってねぇだろ! 人間関係、ナメんな!」
暴力的な正論の嵐で、
センは、彼女の『救援』を叩き潰す。
そのまま、振り返ることなく、
ひたすらに、虫ケラを殺し続けるセン。
そのセンの様子を見た副官は、
チィっと、綺麗な舌打ちをはさんで、
「グレートバグ・ナイトメア! こいつを『脅し』で動かすことが出来ない! もう、カスの魂にかまわず、こっちにきて一緒に応戦してくれ! このままだと、何もできずに削り切られてしまう! ほかの作戦を考えてくれ!」
「……ぐぅ……っ」
悪夢バグは、一度、歯噛みしてから、
「……仕方がないか……」
そうつぶやいた直後、
センエースとの死闘に戻る。
副官の元まで近づくと、
悪夢バグは、
「……カンファレンスコールを撃つ……援護してくれ」
「了解!」
返事をすると同時、
副官は、マシンガンのような姿に変形する。
悪夢バグは、その銃器の銃口をセンに向けて、
「ナイトメア・イビルノイズ・カンファレンスコォオルッッ!」
詠唱しながら引き金を引いた。