41話 本物がほしい。
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1日10話投稿!
4話目!
41話 本物がほしい。
「君に追いかけられている時……君をへし折った時……その時だけ……俺は、真に幸福だった……」
『真の幸福』を得られる者は少ない。『本物』は、なかなか見つからない。
――蝉原は出会えた。
「ああ、そうだ……そうさ……それだけのこと……」
本物が欲しい。
それは、特定の誰かの叫びじゃない。
命持つ者全員に共通する最上位の欲望。
ひねくれた自虐性と、卑屈で残酷なディスコミュニケーションのコンチェルト。
「俺は……君を――」
コントラストの祝福を受けた『素直さ』や『単純さ』と決別して、
狂ったようにラプソディを。
そうやって磨き上げた『弱さ』の上に、
本音の残骸を積み上げていくの。
そうやって築き上げた血だまりの上に、何を注ぐの?
「……」
『もし、自由になれたら……』と、願いながらも、
しかし、どこかで、答えを忘れようとしている。
本当は分かっていた、
――なんて、おためごかしでケムにまくカプリッチオ。
セレナーデにはなりきれない、そんな曖昧なアイマイミーマイン。
きっと悠遠に平行線のユーアンドアイ。
拙いポエムで世界を暗くして、
わずかに残った命のカケラに火を灯してみるの。
一瞬で燃え尽きてしまったけれど、
少しだけ、暖かかったよ。
丁寧なだけの言葉はいらない。
そうじゃない何かが欲しいと、
心の一番奥にいる誰かがずっと叫んでいた。
「……俺は……蝉原勇吾……」
名前なんて、ただの記号で。
本当は、何の意味も持たない、ただの羅列で、
――けれど、
「――君の前に立つ者だ――」
パリィンッッっと、
何かが割れた音がした。
気のせいかもしれない。
けれど、
たぶん、
ただの勘違いではないと思う。
そう思いたいだけかな。
わからないや。
でもね。
「――ぷはぁ……」
蝉原の目が光を取り戻す。
数秒前まで死んでいた闇が呼吸を開始する。
「……はぁ、はぁ……はぁ……」
何度か呼吸を繰り返してみたところ、
まだ、自分は死んでいないと気づく。
死ぬことすら出来ずにさまよう狂乱。
そんな、不安定で優艶なメヌエット。
「……何年経った?」
そう尋ねると、
『蝉原を壊し続けた衝動』は、
とことん穏やかに、
「9035億6000万230年」
「ちっ……まだ1兆年も超えてないのか……意識が飛んでいる間に、終わってくれていれば、楽だったのに……」
「ソウルゲート・オリジンの中では、完全に意識を飛ばすことは不可能。貴様は、意識が飛んだフリをしていただけ。だから、本当は、ちゃんとわかっていただろう?」
「時間からは意識を外していたさ。自分の最深部と意識を調和させて、時間の進む速度から目を背けることで、時間を忘れようと努力した。退屈な時間の過ごし方としては、至極真っ当というか、だいぶ純粋で平均的かつ汎用性のある行動だと思うけれどね」
退屈な授業中に、あえて時計から目を背けて、意識を別のところに持っていく。
時計をじっと睨むよりは、そっちの方が速く時間が経つんじゃないか、と期待してみるけれど、実際のところは、別に、そんなこともなくて、『もう1時間は経っただろう』と期待して時計を確認してみるが、20分しか経過していない、なんてことはよくあること。
「9035億か……ふふ……しかし、まあ……随分と遠いところまできたねぇ……頭のおかしい数字だ……よくもまあ、こんな地獄に耐えられているものだと、自分に感心するよ」