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34話 命の本質は、もっと朴直(ぼくちょく)なんだ。芳醇に幽玄な幽寂だけが、心の鎖を断ち切る、たった一つの希望なんだ。

5年連続毎日2話投稿前夜祭記念、

コミカライズ版センエース、

「まんが王国」「コミックシーモア」「eBook japan」で配信されている記念、

1日10話投稿!

7話目!


 34話 命の本質は、もっと朴直ぼくちょくなんだ。芳醇に幽玄な幽寂だけが、心の鎖を断ち切る、たった一つの希望なんだ。


「この『壁の前』こそが『安息の地』じゃないか。そうか、ここが約束の地。ついに、俺は『最後の証明』に至ったんだ。これが、本当の自由。そう。俺はたどり着いたんだ。これが、命の答え。ああ、なるほど。そうか……最初から、俺の命は完成していたんだね。気づいていなかっただけなんだ。すべての命が天と地の間で一つになって、調和して……ああ、そうか……そうだったんだ。……そこにいたんだね……おめでとう……おめでとう……おめでとさん……めでたいなぁ」


 賢しらに、悟った気になって、自分を慰める。

 センエースは、ガチでヘラった時、頻繁に、この症状へと陥る。


 世界を、無意味にラベリングして、

 命にテキトーなレッテルを張って、


 そうやって、自分の殻を守ろうと必死になる。

 みっともなくて、情けなくて、

 『そんなことはやらない方がいい』と分かっているのだけれど、

 『わかっちゃいるけど、やめられない』という絶対的真理の前では何もできずに溺れてしまうだけ。


「この、美しい永遠の中で、俺は、完全なる夢であり続ける。こんなに嬉しいことはない。さあ、うたおう。うたおうじゃないか。たゆたう銀河の星々を数えながら。練度の高いたまゆらを、浴びるほどの輪廻にのせて――」


 ちょっと何言っているか分からないことを口走りだしたところで、

 田中が、


「おい、大丈夫か? おーい」


 と、普通に、心配の声かけをする。

 センは、完全にイっちゃっている目を田中に向けて、


「田中。君は俺なんだ。君も俺なんだ。俺と君が一つになって、重なり合って、生まれ変わって、揺らめきあって、そして……自由になるんだ」


「うん、そうやな。それでもええねんけど、それ以外の可能性もあった方がええな。というわけで、『こっち側』に帰ってこようか」


「俺はここにいない。お前もここにはいない。本質的な意味で、俺達はどこにもいない。けれど、どこにでもいる。ああ、そうだ。そうなんだ。世界は、こんなにも――」


「もうええて。意味ありげなだけで、実は中身空っぽの戯言は。そんなもんは、生臭な坊さんに任せとけばええから。お前は、お前がやらないかんことを、ちゃんとせぇ」


「田中。お前はまだ、囚われているのか。哀しいな」


 センは、首を横に何度か振ってから、


「田中。その牢獄の鍵はあいているんだ。気づいていないだけなんだよ。いつまで自ら囚われているつもりなんだ。それじゃダメなんだ。それじゃあ、命の本質に届かない。命のすいは、もっと朴直ぼくちょくなんだ。芳醇に幽玄な幽寂だけが、心の鎖を断ち切る、たった一つの希望なんだ」


見栄みばえだけの抽象的な言葉で、目の前の現実をうやむやにしようとしても、実際のところ、リアルは、何にも変わらへん。お経を唱えて救われたと勘違いするんは自由やけど、ホンマに救われた奴は一人もおらん。綺麗なだけの言葉は、器を支えるための要素の一つにすぎん。無意味とは言わんけど、そんなカラッポを中心にしだしたら終わりや」


 そう言いながら、

 田中は、センの頬を、

 バチィン!!

 と、平手で弾いて、


「テンプレで遊ぶんは結構やけど、テンプレに呑まれんな。お遊びのうちは、まだ半笑いで許されえるけど、ガチになってもうたら、ガラス細工のレプリカになってまうど、ぼけぇ」


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