26話 いやぁ、もう俺はダメっすわ。
26話 いやぁ、もう俺はダメっすわ。
「蝉原。貴様はプライドがないわけではない。むしろ、誰よりも誇り高い。下手したら、センエースよりもプライドが高い。その事実は、今の嫌味ひとつとってもわかる。それでも、貴様は、いざとなれば、その膨大なプライドを犬の餌にできる。見事な精神力。常軌を逸した器――蝉原。私はもう、貴様を疑わない。貴様と最後の最後まで心中すると決めた」
信念のこもった顔で、そんなことを口にしたソルに、
蝉原は、涙目で、
「いやぁ、もう俺はダメっすわ。さっきの不意打ちに魂をかけてたんで、それが失敗してしまった以上、もう頑張れねっす。うっす」
と、弱さを見せつけていく蝉原。
次の作戦はもう始まっている。
さっきの今なので、ソルも、流石に騙されたりしないが、しかし、
「見事な演技力だ、蝉原。事前に一発喰らっていなかったら、私は、貴様の弱さを疑わなかっただろう」
「いや、演技とかじゃなくて、ガチですって。……だって、あんた、全部で790億もいるんだろ? で、へたしたら、1001京ぐらいに膨らむ可能性もあるんだろ? だったら、無理じゃん。不可能じゃん。ここまできたら、流石に抵抗する気無くした。もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
そう言って、その場で大の字になる蝉原。
傍目には、本当に心が折れているようにしか見えない。
しかし、腹の中では、
(さあ、どうする? どうやって、ソルの全部を奪い取る?)
――蝉原は、属さない。
別に『自分が最強だと信じている』ってワケじゃない。
ただ、『ラスボスは自分だ』という絶対的な自負があるから、
誰の配下にもならず、誰の手のひらの上でも踊らない。
大魔王は、『頂点』でなければ締まらない。
『ラスボス』ともあろう者が、誰かの配下や操り人形では、
――それを乗り越えるヒーローが輝かない。
幼い日の蝉原は、ただのヤンキーだった。
ただの、ちょっと出来がいいクソガキでしかなかった。
しかし、センエースの美しさを知り、センエースに魅せられ、センエースを追いかけ続け、『本物の質量』を伴う『永き』を積んだことで、蝉原の中で、『意識の革命』が何度も起きた。
その結果、蝉原は、己が理想とする悪の化身へと成長した。
『真の意味』では誰にも媚びず、『絶対的な悪の我』を貫く修羅。
――蝉原は属さない。
己だけが、センエースのラスボスに相応しいと確信しているから。
己以外にセンエースのラスボスをまっとうできる者は存在しないと自惚れているから。
その自惚れは、決して、単なる道化の不遜じゃない。
だって、蝉原は、
(俺は、世界でたった2人しかいないセンエースの心を折った者だ)
その『破格すぎる実績』を命の支えにして、
蝉原は、今日という重たい時間を、
自分の魂魄へと重ねていく。
 




