23話 蝉原の進化が始まる。
23話 蝉原の進化が始まる。
――ガチで積める限界が250万年。
『センエースの高みを知っている者の視点』では、ゴミみたいな数字に思えるだろうが、しかし、『センエースは例外である』という認識をしてもらいたい。センエースを別枠として考え、常識の範疇で、蝉原の精神力を測った場合、『蝉原勇吾は、とんでもない逸材』と言わざるを得ない。常軌を逸した破格の器。
世界最高格の才覚に、人外級の精神力、そして、ビッグなカリスマ。
才能ではトウシに劣っており、精神力ではセンに劣っている。
それは事実だが、『どうしようもないぐらい負けているか』といえば、そうでもないし、カリスマで言えば、だいぶ勝っているため、『総合評価』で言えば、実のところ、センやトウシという狂ったキチ◯イにも負けず劣らない、と言うか、普通に勝っているという、人外の超性能っぷり。
そんな蝉原が、
ここから、まだまだ、積み上げていく。
蝉原の進化が始まる。
★
蝉原は、何度も繰り返す。
必死になって、繰り返す。
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魂の自転車操業はまるで、
奈落のゲーム実況みたい。
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木工ボンドで固めた夢は、
白装束のアスキーアート。
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監獄でいつも夢見たのは、
がらんどうなガフの部屋。
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鬼が島のパンドラの箱は、
桃源郷のジャックポッド。
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フラクタルな弘法の筆で、
無鉄砲を表現する水彩画。
★
蝉原は、何度も繰り返す。
必死になって、繰り返す。
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――『300億年』が経過したところで、
ソルは、
「思ったよりも伸びないな 蝉原の天才性を鑑みれば、流石に、そろそろ固有神化が目覚めるはずなんだが」
300億年経過した段階での蝉原の状態は、ぶっちゃけ、かんばしくなかった。
序盤の100億年ぐらいまでは、まあまあ、いい感じに成長していたのだが、150億年を超えたぐらいから、急激にモチベーションと成長率が失速し、今では、完全に惰性で動いているだけ。
何度か精神にハッパをかけてみたりもしたが、なしのつぶて。
簡単に言えば、蝉原は完全に折れていた。
「もう無理……殺して……お願い」
ここ最近は、口を開いたかと思えば、そればっかり。
『黙っている』か『殺してくれ』と願い続けるか、それだけの泥人形。
それが300億年経過した段階の蝉原。
そんな状態の蝉原を尻目に、ソルは、
「やはり灰化無効の状態では真の覚醒は無理か……とは言え、灰化を有効にすると、確実に消失してしまうし……まいったな。どうしようかな」
色々と、手を替え品を替え、
どうにか、蝉原を開かせようと努力をするソル。
5億年ほどかけて、ありとあらゆる手法を徹底的に試し尽くしたが、しかし、蝉原は、
「殺して……お願い……もう無理だから……本当に……」
壊れたテープレコーダーのまま。
目は虚で、いくら修理しても、心は折れたまま。
中心の芯が砕けてしまっているので、何をしても無駄だった。
今の蝉原は、灰になっていないだけ。
ただ、死んでいないというだけの骸。
散々いろいろ試して、
けれど、結局、『何者にもなれなかった蝉原』を見て、
ソルは、ため息混じりに、
「やはり蝉原ではダメだったか」
しんどそうに、天を仰いで、
何度も、深いため息をつく。
「本来のラスボスプロジェクトに戻すか? いや、でも、半端な個体を適当に創造しても、センエースの相手は務まらない。『積み重ねた器』を使わなければ意味がないし、根性ランクSSクラスはそう簡単に創れない。『今の蝉原を器にしたセンエースのコピー体』を創るか? いやぁ、それは流石に、『センエースコピーの劣化版』にしかならない気がするなぁ。不純物が混じって濁るだけ。綺麗なダイアモンドに不格好な傷をつけるようなものだろう」




