22話 蝉原は強くなった。
22話 蝉原は強くなった。
今の蝉原では、何をしても、破壊衝動ソルをどうこうすることは出来ない。
多くの経験を経て、それを理解した蝉原は、
(破壊衝動ソルは、ハンパじゃない化け物だ。こいつを処理してここから出るには、最低限以上の積み重ねが必須。恐ろしく面倒だが、今は、破壊衝動ソルの掌の上で踊るしかない)
覚悟を決めて強くなろうと努力を続ける。
彼は紛れもなく天才なので、
『まっすぐの努力』を積み重ねることで、
すくすく、すくすくと、
伸びやかに、軽やかに、
ガッツリ、ゴリゴリに、
強く、厚くなっていく。
★
――『300万年』が経過したところで、蝉原は、確かな手応えを感じた。
壁を一つ、乗り越えた感覚。
『才能がない男』なら『乗り越えるために1億年は必要な、高い壁』を、蝉原は、たったの300万年で超えてしまった。
灰化無効の成長率低下を踏まえて考えると、実質的に、蝉原が壁を越えるために必要だった時間は30万年。
センエースの300倍以上の才能。
――まぎれもなく、えげつない天才。
間違いなく世界最高峰の資質。
そんな圧倒的資質を持つ天才が、サイコジョーカーモードで300万年を積んだのだ。
ゆえに、蝉原は確信する。
これだけ強くなったのだから、破壊衝動ソルを破壊することができる、と。
――満を持して、ソルへの反抗を開始した蝉原。
蝉原は、誰の下にもつかない。
誰の命令も聞かない。
誰かの思い通りになってやったりしない。
蝉原は、自身の蝉原性を貫徹するために、誇りをかけて、ソルに挑んだ。
――蝉原は強くなっていた。
300万年前とは比べ物にならなかった。
芯の厚みが爆発的に増加していた。
ゴリゴリの化け物に成長していた。
そんな蝉原を、
『ちょっとだけ本気を出したソル』は、
『秒』でボコボコにしてしまった。
「ぐっ、くそったれぇええ! イビルノイズ・カンファレンスコォオオル!」
必殺技を駆使して、どうにかソルを削ろうと頑張る蝉原。
しかし、ソルは、そんな蝉原のすべてを、ほとんど鼻息だけで蹴散らしていく。
何をしても無意味。
もちろん、蝉原は無力ではないので、『ソルの分体』を何体か吹っ飛ばすことは出来るが、しかし、分体をいくら殺しても、次から次へと補充されて、しかも、補充されるたびに強くなるので、普通にやる気がなくなる。
「強すぎるぞ、テメェえええ! ふざけんなぁ!!」
瀟洒に皮肉を口にすることすらできず、
ひたすらキレ散らかす蝉原に、
ソルは、
「いい感じだぞ、蝉原。その調子で、とりあえず、まずは、1000万年を目指そうか」
「くそがぁあああああ!!」
ちなみに、蝉原の精神は、とっくの昔に、限界を通り過ぎている。
蝉原の精神力では250万年が限界。
つまり、50万年前に限界を超えた。
本当なら灰になっているところなのだが、
ソルが『修理』したため、元気にキレ散らかすことができている。
――ガチで積める限界が250万年。
『センエースの高みを知っている者の視点』では、ゴミみたいな数字に思えるだろうが、しかし、『センエースは突然変異の中の突然変異のスーパー奇行種であるため例外である』という認識をしてもらいたい。
センエースを別枠として考え、常識の範疇で、蝉原の精神力を測った場合、『蝉原勇吾は、とんでもない逸材』と言わざるを得ない。
常軌を逸した破格の器。




