12話 すべてが足りない。
12話 すべてが足りない。
「俺が守りたいのはプライマル・ヒロインズだけじゃない。蝉原に奪われた弟子たちも助けたい。あいつらは、こんな『どうしようもない出来損ない』の俺を愛してくれた。あいつらの忠誠心や愛情が『ソルに植え付けられただけの処理AI』でしかないのはわかっている。それでも、愛してくれたってことに変わりはない。俺自身に魅力があったわけじゃない。俺には何もない。けど、それなのに、全力で愛してもらえた。それが、たまらなく嬉しかった。だから! 取り戻したい! 頼むから、蝉原を殺して、奪い返してくれ」
「ごちゃごちゃうっせぇなぁ。途中から聞いてなかったわ。けど、もう一回言う必要はねぇぞ。何回言われても聞く気ねぇから。お前の家族事情とか、マジで知らんし、クソほども興味ねぇ」
ちゃんとダルそうに、小指で耳をかきながら、
「どうしても取り戻したいならてめぇでやれ。以上。それ以外の結論は、俺の中にない」
「どうしても拒絶するなら、さっき言ったように、自爆して、お前の大事なものを吹き飛ばす」
「お前には、できない」
「さっきから、お前、俺のナニ知ってんねん。ソルから情報を与えられただけのくせに、知ったような口をきくなよ。俺はできる。最後の最後には、全部吹っ飛ばすこともできる」
「じゃあ、やれよ。止めないから。好きにしろ」
「……」
「どうした? ほら、やれよ。殺せ、殺せ。全部の命を吹っ飛ばせ。……おら、なに、もたもたしてんだ? やれよ、ほら、グズが。そういうとこだぞ」
ゴリゴリに煽っていくオリジナルさん。
とてつもない性格の悪さがにじみ出ている。
これのどこが、この上なく尊い命の王だというのか。
「どうした、ヌルさんよぉ。なにもかも全部巻き込んで自爆するんだろ。ボーンと、豪快にいけよ。お前がくったもんを全部丸ごと、跡形もなく、木っ端微塵に吹っ飛ばせ。あの地球人のように」
「……」
「どうした? なに黙って睨んでんだ」
「頼む。センエース。この通りだ」
そう言って、ヌルは、突き刺すような勢いで、額を地面に叩きつける。
そんなヌルに、
センは、
「てめぇの土下座に価値はねぇ。そもそも、土下座に価値がねぇ。見方を変えたら、ただ座っているだけだからなぁ。猫で言えば、ただ寝ているだけ。猫の『ごめん寝』は可愛いから、まだ見てられるが、お前の『ごめん寝』は、キモいだけ」
まだまだ止まらない性悪ぶりを見せつけた上で、
「……つぅか、出来もしない脅ししてんじゃねぇよ、みっともねぇ。それでも俺のコピーかよ、情けない」
その言葉に、
ヌルは、ギリっと奥歯をかみしめて、
「……お前のコピーだからできんのじゃい……」
と、苦しそうに、そうつぶやく。
そんなヌルに、センは、感情のない目で、
「結局、ついには、『できん』って、明言までしちまいやがった。しょっぱすぎるだろ、お前。俺なら、『悪を貫く』と決めたら、最後まで折れずに『自分のゴミっぷり』を世界に魅せつけるぜ」
「ぐうっ」
ぐうの音しか出なくなったヌルに、
センは、まだまだ追撃をぶちこんでいく。
「つまるところ、お前には、足りないんだよ、多くが。情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ。そして何よりも――速さが足りない」
死体蹴りが止まらない、最低な命の王。
「何か反論はあるか? あるなら、壁にでも言ってろ。俺には言うな。聞く気ゼロだから」




