11話 緻密なサバ読み皮算用を元にした計算によると……
11話 緻密なサバ読み皮算用を元にした計算によると……
「悪役には、悪役なりの意地があるだけだ。――心のどこかでは『頑張れば、オリジナルにも勝てるんじゃないか』と思っていたんだが、普通にむりだった。頑張ってどうにかなる範囲にいるなら、努力する気にもなるが、俺の根性じゃあ、お前を超えることはできない。……ごちゃごちゃと前提を並べたが、結局のところ、お前を見て、へし折れたってだけのダサすぎる話。このみっともなさを抱えたまま生きるとかはダサすぎて嫌だから、せめて綺麗に終わりたい。それだけの話さ」
「……ふむ。なるほど」
そこで、センは、
――突如『頭に中に入ってきた情報』を、
心の奥で整理してから、
「お前は、なにがなんでも……死んでもヒロインズを助けたいのか」
「は?! な、なんで――」
「なんか、ソルが、今、俺の頭の中に、お前に関する機密情報を垂れ流してきた。お前がどういう思いで、何をしようとしているのか、その辺、裏も表も関係なく全部」
「……ぁ、あの、くそぼけ、どういうつもりだ……」
恨めしそうにそう吐き捨てつつ、
ヌルは、『先ほど吐き出したソル』を睨みつける。
ソルは、ヘラヘラ笑いながら、手を振っていた。
「ソルを本気で殴りたいと思ったのは初めてだ。いや、別に初めてじゃないが、今ほどイラついたのは確実に初めてだ」
ギリギリィィッと奥歯を噛み締めてそういうヌルに、
センは、
「胸糞を殺すためなら、自分が死ぬことも厭わない。その覚悟は天晴れと言えなくもないが、それだけの覚悟を決められるなら、『自分でどうにかしよう』と思えよ。なんで、『自分の手でぶっ飛ばす』じゃなく、『俺の経験値になる』って結論になるんだ。その船は、お前の手で漕いでゆけよ。お前が消えて喜ぶ男に、お前のオールを任せるな」
「誰も彼もが、お前のように、『運命を殺せる』わけじゃない。色々と計算して、考えぬいた上で、『俺では無理だ』という結論にいたった。この絶望を超えられるのはお前だけだ。オリジナル・センエース」
「運命を殺せるかどうかは、机上論でわかるもんじゃねぇよ。ちなみに、俺の『緻密なサバ読み皮算用』を元にした計算によると、『お前でもいける気がしなくもないような感じがする』という、非常に繊細で高度な暗算結果が出たから、やりたいなら、自分の力で頑張れ。以上」
センエースの頑固さを知っているヌルは、
ギリっと奥歯を噛み締め、
『こうなったら恥も外聞もない』とばかりに、
その場で綺麗に土下座して、
「頼む、ヒーロー。俺の大事なものを守ってくれ。頼む」
とことん本気の懇願。
その気になれば、なんでもできる。
『大事なものを死んでも守る』と決めた時の狂った熱量。
この辺の覚悟スペックだけは、オリジナルにも劣らない。
「俺が守りたいのはプライマル・ヒロインズだけじゃない。蝉原に奪われた弟子たちも助けたい。あいつらは、こんな『どうしようもない出来損ない』の俺を愛してくれた。あいつらの忠誠心や愛情が『ソルに植え付けられただけの処理AI』でしかないのはわかっている。それでも、愛してくれたってことに変わりはない。俺自身に魅力があったわけじゃない。俺には何もない。けど、それなのに、全力で愛してもらえた。それが、たまらなく嬉しかった。だから! 取り戻したい! 頼むから、蝉原を殺して、奪い返してくれ」




