10話 もっと、ビシっとした技はないの? ないんなら、そろそろ殺しちゃうけどいいか?
10話 もっと、ビシっとした技はないの? ないんなら、そろそろ殺しちゃうけどいいか?
ヌルは、今の自分にできる全部を、あますことなくセンにぶつけていく。
とんでもない強さなのは間違いないのだが、流石に相手が悪すぎた。
常軌を逸した努力の化身、舞い散る閃光センエースの前では、ヌルは、ただの虫けらだった。
「――零閃流究極超神技、龍閃零崩拳――」
最強の必殺技を放つが、
センは、『ひょい』っという、陳腐な擬音一つで、あっさりと回避。
数値の上では、確実に、センエースの方が弱いのだが、しかし、今のセンとヌルでは、戦闘力の方に差がありすぎた。
将棋でたとえるなら、『名人』と『ギリ、ルールが分かっていないやつ』ぐらいの差がある。
この状態で『全成り8枚落ち』程度のハンデは、もはやハンデと呼べるものではなく、セン側が『大人げない』と言われてしまうレベルの差。
プロレスラーが、赤ちゃん相手に、水平チョップをガチで決めに行くようなみっともなさすらある。
みっともないというレベルを超えて、もはや、しんどいグロ映像である。
ゆえに、センは、手を出さず、
ヌルの『全力の全て』をしっかりと見届けてから、
「もっと、ビシっとした技はないの? ないんなら、そろそろ殺しちゃうけどいいか?」
軽やかに、テンプレで挑発を決め込んでいく。
ヌルは、
「……は、はは……ははは……」
一度、重たく自嘲してから、
「……『決死の覚悟』を叫んだとて、相手が、こっちの覚悟を遥かに上回っていたら……まあ、意味ねぇわな……」
と、そうつぶやいてから、
「……センエース……」
まっすぐな目で、センを見つめて、
「俺の『中』に……『お前が取り返したいと願っているもの』の……『半分』がある」
「……半分かい」
「もう半分は、蝉原がもっていった。今、どこにいるかしらんけど、どうやら、ソルの破壊衝動と一緒に、お前を殺そうと、色々と頑張っているっぽい」
「へぇ」
「全部、取り戻したいなら、俺と蝉原を殺すしかないぞ」
「そうなの?」
「……ああ、そうなんだよ」
そう言いながら、ヌルは、
自分の中から、ソルとトウシと1002号を引きずり出して、ペっと捨てる。
ただのヌルになった彼は、
「今から、俺は、俺の中にある『お前から奪い取った世界』を終わらせる。最上位の自爆で全部吹っ飛ばす。止めたかったら、俺を、綺麗に殺して奪い取れ」
「……お前、死にたいの?」
「そうじゃねぇよ。悪役には、悪役なりの意地があるだけだ。――心のどこかでは『頑張れば、オリジナルにも勝てるんじゃないか』と思っていたんだが、普通にむりだった。頑張ってどうにかなる範囲にいるなら、努力する気にもなるが、俺の根性じゃあ、お前を超えることはできない。……ごちゃごちゃと前提を並べたが、結局のところ、お前を見て、へし折れたってだけのダサすぎる話。このみっともなさを抱えたまま生きるとかはダサすぎて嫌だから、せめて綺麗に終わりたい。それだけの話さ」