9話 品性で欲望は満たせねぇ。
9話 品性で欲望は満たせねぇ。
「俺は……強くなった……これなら、何でもできる……」
センは、自分の両手を見つめながら、ボソっと、
「今の俺なら、出来ないことはない。なんでも手にはいる。でかい家、いい車、うまい酒、エロい女、俺を崇める大量の奴隷、なんでもかんでもよりどりみどりだ。たまんねぇな、おい。人生バラ色だ」
「品性は強さでは得られないよ、センエース」
「そんなもん、いらんがな。品性で欲望は満たせねぇ」
「もちろん、そうだ。『献身』じゃ、なにも満たせねぇ……ただ、すり減っていって、ゆがむだけ……」
そこで、ヌルは、自分の奥へ、奥へ、奥へともぐっていく。
「それでも、病的に、叫び続けた、お前の覚悟……ずっと見てきたよ……さすがはオリジナルだ。できそこないの俺とは違う……」
ぐつぐつと、膨れ上がっていく理由。
その神髄と、ヌルは向き合う。
「けれど、だからこそ……俺も、叫び続けようと思う……ぶっ壊れて、ゆがんで、腐って……それでも無くさなかったものを……最後の最後まで……」
まだ上がる。
もっと上がる。
「おめぇの出番だぞ、ソル。ベースは俺がやる。力だけよこせ」
と、そう宣言すると、
『ヌル』の全部がグワっと膨れ上がる。
だから、
ヌルは、
「太陽神化」
まぶしく輝いてから、
「混沌神化」
黒く、はげしく、またたいていく。
『天星神化7×真醒・究極超神化3』のダブル神化に、『固有神化のダブル』を絡ませていくという掟破りのクアドラプル神化。
トリプルすら超越した別次元の難易度。
本来はありえないが、『ソル』を下地にできる今だけの特殊特権。
――状況が状況なので、ソルに意識を切り替えたりしない。
ここでのセンエースの相手は、自分でなければいけないという強い自覚が大暴走。
だから、ヌルは、ヌルのままで、
「存在値にして3京7000兆ぐらい……だいぶ強くなったが……まあ、数字なんて、今のお前の前では、ただの飾りだろう」
そう言いながら、武を構えて、
「いくぞ、センエース。ころしてやる」
「絶対に無理だろ。クアドラプル神化はすげぇが、どう見ても、扱いきれてねぇ」
鼻で笑うセン。
ヌルには、『敵に、自分をナメさせる』という特質がそなわっているが、
それとは関係なく、実力差でナメられている。
それも当然の話。
今のセンエースからすれば、
今のヌルは、あまりにも、ちっちぇぇ。
クアドラプル神化によって出力だけは爆上がりしているが、
慣れていないのが見え見えで、明らかに数値に振り回されている。
この状況を、あえて将棋で例えるなら、
ヌルは『すべてのコマが成った状態でスタート』みたいなもので、
対するセンは『金と歩しかない8枚落ち』の超ハンデ状態。
数値の上では、明確にセンの方が弱いのだが――
「零閃拳っっ!!」
ヌルの全力の猛攻を前に、
センは、
「ほい、ほい、ほいっと」
軽やかに、すべてを受け流していく。
「くそぉおおっ!」
ヌルは、今の自分にできる全部を、あますことなくセンにぶつけていく。
とんでもない強さなのは間違いないのだが、流石に相手が悪すぎた。
常軌を逸した努力の化身、舞い散る閃光センエースの前では、ヌルは、ただの虫けらだった。
「――零閃流究極超神技、龍閃零崩拳――」




