6話 無駄なんだよ。お前が俺に勝とうなんて。
6話 無駄なんだよ。お前が俺に勝とうなんて。
「もうちょっと腰を入れて殴ろうぜ。あまりに衝撃がなさすぎて、『内臓だけを破壊する特殊な技かな』って、疑っちまったが別にそんなことはなかったぜ」
ゆるくテンプレを交えながら、そう言うと、センは、
「深淵閃風」
1002号の足をサラっとすくっていく。
芸術的な水面蹴り。
『才能なき者』にしか辿り着けない局地。
無能だったからこそ形成できた狂気の器。
天才には決して真似できない泥臭い結晶。
「うおっ」
一瞬でひっくり返された1002号の、
『マヌケに天を見ている顔面』に、
センは、
「地龍閃拳」
地面に向かって叩きつけるタイプの閃拳を使う。
無数に存在する閃拳の派生技。
その中の一つを、華麗にお披露目。
ガンっと、地面に叩きつけられて、衝撃のあまりバウンド。
センの腰のあたりまで跳ね返ってきた1002号の体躯に、
センは、続けて、
「十閃楽団」
十連コンボを入れていく。
昔は、ただのナメプでしかなかった技。
同等の実力を持つ相手の場合、簡単に抜けられてしまうので、初心者狩りの役割しか持てなかった技。
だが、今は違う。
アホみたいに時間をかけて磨き上げてきた結果、『抜けられない十連コンボ』へと昇華させることに成功。
センエースの『真醒・裏閃流』は、
この5兆6000億年という気が狂いそうになる時間の中で、
じっくりコトコト煮込まれて、
とてつもない次元の『極み』へと進化していた。
――ギッチリと、ボッコボコにされた1002号は、
「げふっ」
普通に意識を失って、
その場に倒れこむ。
それを見たセンは、
「アホくさ……茶番もここまでくると不快感しか覚えねぇな」
と、しんどそうに溜息をついて、
天を仰ぎ、
「さて、ここから、どうするかな……んー、とりあえず、元の世界に戻る方法を――」
と、考えていると、
そこで、
1002号が、スっと、何事もなかったかのように立ち上がった。
センは、そんな1002号に視線を向け、
「雰囲気が変わったな……なにをした?」
と、問いかけると、
1002号は、
「お前があまりに強すぎて、様子見モードでは話にならんから、ここからは、容赦なく積ませてもらうことにした」
「クソ茶番は、もういいって……」
「茶番? ザンクさんたちの覚悟が茶番? ……ふざけんな……」
そこで、1002号は、自身の奥にある全部を沸騰させていく。
「こっちは、大事なもんがかかっとるんじゃい。絶対になくしたくないものがかかっとる。だから――」
「その大事なもんとやらは、俺を殺したら回収できるのか? だから、今、俺に殴り掛かっている、とそういう認識でいいか?」
「……ああ、そうや! なにがどうとは言えんけど、お前が死ねば、ザンクさん的にはハッピーエンドなんじゃい! というわけで、死ねぇええ!」
全力で突撃。
その猛攻を、
センは、軽やかに受け止めて、
「ザンクさんよぉ。……お前ごときが俺様を殺すのは絶対に不可能だから、それ以外の方法で、お前のハッピーエンドを考えてみようぜ。もし、本当に、俺を殺さないと届かないハッピーエンドなんてものがあるのだとしたら、その前提を殺してやるから、俺に相談してみろ。お前は、今、どういう状況にいる? 何をどうすれば、お前はハッピーエンドになる?」
「……なんで、ザンクさんのハッピーエンドを重視する?」
「重視はしてねぇ。鬱陶しく絡まれているから、それをやめさせたいだけだ。気づいていないかもしれないが、こっちは疲れてんだよ。5兆6000億年も、ひたすらに頑張り続けて、その結果、茶番をつきつけられて、ぶっちゃけ、ガチの死闘を演じるよりも、普通に、精神的にしんどい状況なんだよ。こちとら、一刻もはやく帰って休みたいんだよ。だから、お前を黙らせたい。それだけだ。マジでそれだけ。いや、ほんとに。本当のマジで。これに関しては、照れ隠しとか抜きのマジで」




