5話 センエースはわらっている。
5話 センエースはわらっている。
「もういいって 馬鹿馬鹿しい。お前が俺を殺すことなんて、結局のところは、できるわけがねぇんだから。なんせ、お前はこの世でもっとも高潔な男なんだから」
と、『強めの信頼感』を見せていくセンに、田中は、
「ウルティマ・オートマタ」
と、『自動で相手を全力で殺しにいくスキル』を使用した。
直後、田中のスピードとパワーが跳ね上がる。
豪速で真っ直ぐに距離を詰めてきた田中。
その直線的な攻撃をサクっと回避して、
「閃拳」
右ストレートのカウンターが、田中の顎を砕く。
その直後、オートモードから解除される田中。
意識を取り戻した田中は、
バッキバキになった顎に回復魔法をかけつつ、
「……い、今見せたウルティマ・オートマタは、多少パワーとスピードが増すけど、意識のない自動人形になるというデメリットがある。簡単に言えば『総合力的には普通に弱くなる』という欠陥品モード。そんな、使い勝手の悪いド低脳システムを、このワシが運用すると本気で思うか?」
「というと?」
「ウルティマ・オートマタには正しい使い方がある。完全無意識の人形になるのではなく、『ワシという人形』を、『狂気のマエストロ』に操らせるという手法。ワシの演算力はそのままに、ワシよりも優れた戦闘力と、ワシよりも優れた根性で、『強化されたワシの肉体』を乱舞させる」
そこで、田中は、自分の奥にいる『田中の2番手』に声をかける。
「オメェの出番だぞ、1002号」
オーダーを受けた1002号は、
すでに人形になっている田中の体の手綱を握る。
世界最強のCPU『タナカ・イス・トウシ』を搭載した1002号は、
センエースを睨みつけ、
「さて、ほな、いこか。ザンクさんは、トウシと違って、高潔でもお人よしでも、聖人でも、支配者でもないから、お前を殺すことを躊躇わんぞ」
「……『ザンク』……その名前、どっかで聞いたことある気がするけど、忘れたな。ってことは、たいしたことないやつだろうな。蝉原とか、トウシとか、やばいやつの名前は忘れないから」
「まあ、トウシや蝉原と比べれば、確かに、ザンクさんは微妙やけどな」
そう言いながら、1002号は全身のオーラと魔力を丁寧に練り上げて、
「けど、今のザンクさんは、かなり膨れあがっとるからな。半端な実力やないで。あ、ちなみに、ザンクさんのメガネにかなわんかったら死ぬからな。使えんと思ったら殺す。使えると思ったとしても、ここでザンクさんの1人も殺せんようなら、そんなカスはいらんから、やっぱり殺す。死にたくなかったら、本気でザンクさんを殺しにこい」
「おまえの命令を聞かなきゃいけない理由が、俺にはなさすぎる。覚えとけ、三下モブ野郎。俺は俺のワガママ以外を重視しない」
数秒の、静かな睨み合い。
その直後には、もう、両者の間で暴走が起きていた。
剛腕を振り回す1002号。
明らかに底上げされた『田中』の力を、
センは、
――嘲笑っていた。
「もうちょっと腰を入れて殴ろうぜ。あまりに衝撃がなさすぎて、『内臓だけを破壊する特殊な技かな』って、疑っちまったが、別にそんなことはなかったぜ」
ゆるくテンプレを交えながら、そう言うと、
センは、
「深淵閃風」
1002号の足をサラっとすくっていく。




