1話 いくつだと思う?
1話 いくつだと思う?
――実際のところ、最後の500億年の中で、
センは、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、
躁鬱の波乱万丈を繰り返した。
『あと、10兆でも100兆でも、余裕でやってやるぜ、ひゃっはぁ!』
という躁状態と、
『もう無理。さすがにもう無理。死にたい。殺して』
という鬱状態を、
何度も、何度も、
交互に、繰り返しながら、
一歩ずつ、確実に、前へ、前へと進んでいく。
センエースは折れなかった。
何度も鬱にはなったものの、結局、
最後の最後まで、一度も折れなかった。
折れかけたことは何度かあるけれど、
最終的には、気合と根性だけで、自分の弱さをブチ殺してみせた。
才能でも、資質でも、運命でもなく、
ただの、一個人の『気合い』という、
あまりにも、頭が悪い根性論だけで、
――センエースは、
5兆6000億年を走り切った。
★
「――……」
意識を取り戻した時、センは、自室で、ゲ〇ムボーイ片手に、
ムーア最終の作成に取り組んでいた。
センは、静かに、ゲ〇ムボーイの電源を切って、机の上におく。
そして、ソっと、ゲ〇ムボーイの液晶画面に触れて、
「……ずいぶん、長い間、付き合ってくれたな。毎回、毎回、本当に、よく付き合ってくれた。……何度か、感情のままに、たたきつけてしまったことがあったな……悪かった。正式に謝罪する」
ギャグ抜きの全力ガチンコで、ゲ〇ムボーイに頭を下げていると、
そこで、
ヨグナイフが、勝手に、センの目の前に顕現して、
「――この上なく尊き命の王よ。準備は出来ているか?」
これまでは、ずっと、『ロープレの住人ばり』に、無感情に、同じことしか口にしなかったヨグが、
今回だけは、穏やかな口調で、そう言った。
センは、黙ったまま、超然とした目で、窓の外を見つめている。
静かな瞳だった。
静寂の粋を集めたオーラ。
「……」
黙って世界を睥睨していると、
そこで、ハスターが、背後から近づいてきて、
「……センエース、契約の時間だ」
と、前置きもなく、そう言った。
「どうやら、タイムリープは問題なく成功したようだな。今回は何回目だ?」
「何回目だと思う?」
「さあな。まったくわからない。自分では理解できない領域に達している――ということ以外は、何もわからない」
「回数で言えば、3000億回だ。年数で言えば、5兆6000億年」
「っ?!……さ、3000……億回……?」
「それだけ長い間、よく付き合ってくれた。ハスター、お前は、俺のワガママに、ずっと寄り添ってくれた。礼をいう」
泰然とした態度、
あまりにも静寂が過ぎるオーラ。
すべてが物語っていた。
センエースがたどり着いた高み。
ハスターは、センの言葉に疑念を抱く余裕すらもてず、
ただただ、センの雰囲気に圧倒される。
そんな中、
センが、世界で一番嫌っている天才がひょっこりと顔を出して、
「タイムリープ、どうやった? うまいこと、いけた? いい感じに殺された?」
と、軽やかな言葉を投げかけてきた。
質問には答えず、センは、穏やかな目のまま、
「田中。少し、話をしよう」




