95話 命には限界があったよ。
95話 命には限界があったよ。
命には限界がある。
命のパッケージには、『ここから先にはいけない』という境界線がある。
センエースは、今、そこに立っている。
この苦しさとは、もう、向き合うとか、向き合わないとかじゃない。
ここが限界。
ここまでくることが出来ただけでの喝采に値する。
誰だって、そう認めてくれる。
そりゃそうだ。
認められないわけがない。
ここで折れたからって文句を言われる筋合いはない。
センエース以外では、誰も、ここまでたどり着くことすら出来ないのだから。
脳の奥に、ザラリと触れてくる。
視界が狭くなっているのを感じる。
思考を制限されているのを感じる。
弱い自分の、醜さの大合唱がやかましい。
――ヨグや、ハスターが声をかけてくるが、
そんなもの、まったく耳には入ってこない。
センは、自分の殻に閉じこもる。
小さくなって、自分を抱きしめて、
終わらない地獄に恐怖を感じる。
苦しくて、苦しくて、仕方がない。
『もう無理だ』という心の叫びに、体が順応していく。
『やる気』というものが完全に枯れ落ちて、
全身の肉が、『異常なほどの濁った水分』を含んでいるように感じる。
枯れているのか、むくんでいるのか、
自分の状態がさっぱり見えなくなって、
さらに、心がしおれていく。
とにかく背中が痛かった。
ピンと張り詰めているみたいに、
まるで、血が止まってしまったかのように、
首裏が痛んで、吐き気がする。
喉も耳もつまって、謎の膜が張っているみたい。
自律神経が完全にバグってしまっている。
サイコジョーカーが大暴れしている証拠。
サイコジョーカーとイタズラな領域外の牢獄のコンボだけでも、
相当な地獄で、普通の人間には耐えられるものではない。
その下地の上に、大量の縛りを積み上げて、
何億、何兆という時間、努力に努力を重ねてきた。
『だから、まだ頑張れる』という視点と、
『だから、もういいだろう』という視点。
その二つにすりつぶされて、肉と心が、どんどんコナゴナになっていく。
「……助けて……」
ぼそっと、こぼれた本音。
今だけの悲鳴じゃない。
心の奥は、ずっと叫んでいる。
――だって、センエースはヒーローじゃないから。
――ただの脆くて弱い人間だから。
それなのに、無理をして、ヒーローのフリをしているだけのピエロだから。
だから、ずっと、心の奥では『完全なる救い』を求めていた。
『助けてほしい』と、ずっと、ずっと、叫び続けてきた。
『そんなセンの【救いを求める声】に応えにきた』
――というワケではないけれど、
そこで、世界一の天才が登場して、
「……随分と堕ちとるな。今回は何回目?」
震えているセンから視線を外し、ヨグにそう声をかける。
ヨグは、サラっと、
「2975億回を超えている。年数で言えば、5兆5500億年以上」
と、答えた。
それを聞いて、田中は、
「……」
『嘘である可能性』を少しだけ考えたが、
しかし、ヨグの視線があまりにまっすぐだったのと、
センの堕ち方がハンパじゃなかったので、
「そうなんや……すごいな。『もしかして2周目の途中かなぁ』とか、ナメた予想しとったんやけど、それどころやなかった。えぐい延長しまくってるやん」




