94話 もう無理。
94話 もう無理。
『残り500億年ちょっと』となったタイミングで、コレまでのループ人生における最大級の『鬱状態』に陥ってしまったセン。
病んでしまうこと自体は、定期的に頻繁に経験しているのだが、ここまでガッツリと、堕ちてしまったのは初体験。
ハっと目が覚めると同時、センは、ゲ〇ムボーイを放り投げて、糸が切れた人形のように、グデっとベッドに倒れ込む。
「あと500億年……無理だ……もう無理だ」
スーパーハイになっている時は、『5兆でも10兆でいけるぜぇ』とバッキバキになれるが、基本的には『エグいてぇ』のテンションで頭を抱えている。
そりゃそうだ。
『死ぬほどの縛りを抱えた上で大事な配下に殺され続ける』という、地獄の釜の底エンドレスワルツに興じているのだから、スーパーハイテンションを維持できる方がおかしい。
「もう一歩も動けない。もう無理だ」
『構ってちゃんのレス待ち』ではなく、ガチで、
今のセンの精神は、ゴリゴリの限界を迎えている。
何度も、何度も経験してきた地獄。
その地獄が積み重なって、
今のセンの心を殺しにかかってくる。
免疫力が低下した時に暴れるウイルスみたいに、
『イタズラな領域外の牢獄』が目を輝かせて牙をむく。
これまで、ずっと、『イタズラな領域外の牢獄』に抵抗できていた理由は、『純粋な根性』でしかない。
抗体ができたからでも、適応できたからでもない。
ただ、ずっと、我慢していただけ。
その我慢が『出来ない状態』にまで鬱ってしまった。
その結果、センはとことん落ちていく。
心が死んでいく。
どんどん、沈んでいく。
ドロリと、重たい液体の中に閉じ込められた気分。
引きずり込まれる。
心の制御を殺してくる。
支えだった根性の根っこを削られる。
頑張ろうという気力が本当に、根こそぎ奪われていく。
まぶたが重い。
吐き気がする。
頭痛が止まらない。
胸が苦しくて、指一本動かすのすらままならない。
肉体も、精神も、全部が壊れてしまった感覚。
『もう本当に勘弁してくれ』と土下座して、本気の許しを懇願したい。
なぜ、こんなにも苦しまなければいけないのか、と真剣に悩み、自分の境遇を呪うことしかできなくなる。
苦しい。苦しい。苦しい。
ずっと、そうだったが、今、この瞬間が本当に辛い。
『弱さ』にまとわりつかれて動けない。
鬱々とした自分の中の粘り気に邪魔される。
思考がまとまらない。
とにかく体が動いてくれない。
『もう頑張らなくていい』
『もうやめよう』
――これまでにも、何度も、この手の『弱さ』に引きずり込まれそうになって、そのたびに、必死になって耐えてきた。
……けど、もう無理そう。
これまで頑張って耐えてきたからこそ、疲労がとことん積み重なって、限界まで憔悴してしまった。
無限じゃないんだ。
根性にも限りはある。
無限に頑張れるやつなんていない。
無限の体力を持つわけじゃない。
……だから、もう無理。
もう頑張れない。
命には限界がある。
命のパッケージには、『ここから先にはいけない』という境界線がある。
センエースは、今、そこに立っている。




