88話 ぶっ壊れては、精神力だけの自力で再生して……
88話 ぶっ壊れては、精神力だけの自力で再生して……
――センエースは、ただ、同じことをプラス5回やるのではなく、『とことん、成長率を追及した追加5周』を求めた。
サイコジョーカーとイタズラな領域外の牢獄。この二つだけでも過剰難易度なのだがセンは、その3倍の負荷を求めた。
「セン、ほんまに、これでやんの? 1回、2回とか、10年、100年とかではなく、ここから、20年の500億回を5周……ようするに、5兆年……この地獄の状態で5兆年、ほんまにやんの? こんなもん、そこらの無間地獄とかより、よっぽどエグい地獄やで。『こんな地獄を、よう考えられますねぇ』ってドン引きするレベルの地獄なんやけど、これを、ほんまに――」
「ふむ。なかなかの縛りだ……深いコクとキレがある……この芳醇な味わい……うむ……」
その場で、かるく体験してみたセンは、
奥歯をかみしめて、
「……これでいい。これなら届く…………知らんけど」
ボソっと、そうつぶやいた。
★
呆れたことに、センは、ガチで、『縛り3倍・5兆年チャレンジ』をやり始めた。
はた目には完全に正気じゃないが、しかし、センはクールだった。
全くもって狂っていない。
むしろ、脳はパキパキで、いわゆるランナーズハイ状態。
研ぎ澄まされた精神をフルで、5兆チャレンジにぶっ込んでいく。
……もちろん、その道中で、センは何度も壊れた。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も――『ぶっ壊れては、精神力だけの自力で再生して』――というのを繰り返した。
――精神とは厄介なもので、浮き沈みがある。
無敵に思える精神状態の時もあれば、
病み切って眩暈と頭痛が止まらなくなる時もある。
『上がって、下がって』を繰り返しながら、センは少しずつ前に進んでいく。
ぶっ壊れて、立て直して、歪んで、立て直して、腐って、立て直して、そうやって、何度も何度も何度も何度も何度も何度も、破壊と復活を繰り返して、センエースは、ボロボロに磨かれていく。
擦り切れてなくなってしまいそうなほどに、センエースは、ひたすらに己を研磨し続ける。
★
「――……」
意識を取り戻した時、センは、自室で、ゲ〇ムボーイ片手に、
ムーア最終の作成に取り組んでいた。
「……」
センは、見慣れた天井を見上げて、
「ふぅぅ」
超然としたタメ息を吐く。
磨き上げられた魂は、
即座に『今回の朝』と調和を果たす。
「……」
ほとんど完全なる『無』の状態で瞑想をしていると、
そこで、
ヨグナイフが、勝手に、センの目の前に顕現して、
「さあ、ボーナスタイムだ。今回獲得した経験値を割り振っていけ」
センは何も言わない。
ヨグの声をまるでアラームように、単なる音としか認識していない。
黙ったまま、ただ淡々と経験値振りをするセン。
その途中で、ハスターが、背後から近づいてきて、
「……センエース、契約の時間だ」
と、前置きもなく、そう言った。
「……」
センが視線をおくると、
ハスターは、たんたんと、
「どうやら、タイムリープは問題なく成功したようだな。今回は何回目だ? 正直予想もつけられない。私の存在値が、異常な領域に至っているから、1億や2億なんていう安い数字ではないとは思うが んー、正直よくわからない。今の私は、私の理解を超越した場所にいる」




