84話 この指の本数を言ってみろ。
84話 この指の本数を言ってみろ。
「褒めろ。称えろ。喝采しろ。賛美しろ。そして、跪け。命乞いをしろ。小僧から石を取り戻せ。私がム〇カ大佐だ。僕が一番、ムスカ〇佐をうまく使えるんだ。俺が……俺たちがムス〇大佐だ!」
「ちょっと何言っているか分からないが……しかし、すごいな。本当に500億回をやりきるとは」
「もっとだ、もっと石を取り戻せ。まだ足りん。全然足りん。俺の偉業は、そんなものじゃない。ちょっとした賛美では満たされんのだ。そんな褒め言葉では、まるでゴミのようだ」
「だいぶ、ハイになっているな……まあ、さすがに、今回ばかりは仕方ないが」
などと、無駄な対話をしていると、
そこで、
『センさんが、今、世界で一番会いたがっている天才』がひょっこりと顔を出して、
「タイムリープ、どうやった? うまいこと、いけた? いい感じに殺された?」
その問いに、センは、フっと、ニヒルな笑みで、一度、応えてから、
手をバっと広げて見せて、
「この指の本数を言ってみろ、田中さんよぉ」
「……え、5本?」
「あとはわかるな?」
「いや、なんちゃわからんけど。お前がヤバいってこと以外」
「ダメだなぁ、トウシくん。へたっぴさ。そんなんだから、お前はダメなんだ」
と、センは、一通り、無駄にはしゃいでから、
「教えてやろう。驚く覚悟はできたか? 俺はできてる。お前は今から瞠目し、そして言うだろう。――『センエース、お前こそ真の三國無双よ』と」
「どんだけ引っぱんねん。言いたいことあるならさっさと言えや」
「聞いて驚け。俺は、ついに――」
「あ、だんだん、記憶も回収できてきた。……うおっ、お前、今回が500億回目やん。だから、そんなに、鬱陶しくハシャいどったんか。それやったら、まあ、納得やな。すごいやん。ついにやったな。まあ、まだ最後の20年があるけど――」
「テメェえええええ!!」
「な、なんやねん。何キレてんねん」
「勝手に思い出すんじゃねぇ! 俺の口から聞いておどろけ! やり直しだ! いったん、今、無意味に思い出したことを忘れろ! そして、俺から聞いて、全力で、そこら中、転がり回る勢いで驚き、俺の偉業を、白目剥いて泡吹きながら、全力でたたえろ! はい、忘却っ! どうだ? おもいだしたことを忘れたか? 忘れたな。よし。じゃあ、テイク2」
パンっと両手で音を鳴らしてから、
センは、バっと広げた手を田中に見せつけながら、
「この指の本数を言ってみろ、田中さんよぉ」
と、長尺のテイク2を開始。
田中は面倒くさそうに、一度、舌打ちをしてから、
「5本! つまり、500億年やり切ったってことか! ウォオオー、スゴイー、コイツは、おったまげが止まらへんー。きゃー、センエースさーん。すてきー、だいてー、サインしてー、貴様がナンバーワンだー、よっ、宇宙一。あんたが大将ぉ」
と、棒読みで、ダルそうに、そう吐き捨ててから、
「――まだやった方ええんやったらやるけど、どうする?」
「お前さぁ、本当に俺を不愉快にさせることに関しても天才だな。そんなに全方位で天才である必要ないと思うんだが。てか、なんで、その天才性を、俺を愉快にさせる方向で発揮できんの?」
「ワシもお前のことが嫌いやからやと思うで」




