80話 一番厄介なサイコテロリスト。
80話 一番厄介なサイコテロリスト。
『いえ、我々は、王を守る親衛隊! 人類がどうなろうと関係ありません!』
「非常にダメな考え方をしているねぇ。ゼノリカでは……俺が頭で、お前達は手足。手足は頭の指令に対して忠実に動く。それが大原則だ……が、それは機能としての話で生死での話ではない。残すべきはゼノリカ。俺の命令は最優先だが、俺を最優先に生かすことはない」
『ありえません。王の命こそすべて。王を愛し、王を慈しみ、王と共に死ぬ。それが我々の生きざまの全てです、尊き王よ』
「いや、だからね――」
『王、王、王!! ああ、尊い! あなた様だけが……あなた様こそが、全てを包み込む光!』
天下の中に刻まれた『センエースに対する愛の輝き』が加速していく。
その輝きは、ついに、彼らの可能性を開花させた。
天上だけではなく、
天下の面々も、
当然のように、
『轟烈閃化』を獲得していく。
『偉大なる主よ、果て無き王よ、尊き父よ……我ら一同、永久に、御身の心身に寄り添い、たとえ、この命果てても、魂魄の限りを尽くすと誓います。……リラ・リラ・ゼノリカ……』
「だから、ちょっ、いや、あの……た、助けてぇええええ! タナえもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」
『完全ぶっ壊れ狂信者』となった天下は、
もはや、セン的に、一番厄介なサイコテロリスト。
なんだったら、ラスボスなんかよりも、よっぽどしんどい、最大の敵。
ループが終わった後のことを想い、センは、心底憂鬱な気分になった。
が、センには希望があった。
(でぇじょうぶだ、タナカンボールで生き返れる。あいつがその気になれば、天下の頭の中から俺の記憶を消すぐらいワケないよ。そうだよ。ループ問題さえクリアできれば、あとは、田中がどうにかしてくれる。頼んだぞ、田中。あとのことは全部任せた。俺はもう闘わん)
センは知らない。
センだけが知らない。
田中は、センの孤高を守るために行動する気などサラサラない。
むしろ、この件に関して言えば、田中は完全に敵である。
田中は、配下たちが、より深くセンを愛するように行動している。
天才の計画的包囲網に穴はない。
(田中がいてくれて本当によかった。あいつだけは、俺に対して、妙な感情をいだいていない。『謎の勘違い信仰』という毒に犯されていないから、『不自由な崇拝』という『奇妙な鎖』に縛られない。俺はあいつの大事な恋人を守り、あいつは俺の大事な孤高を守る。これは契約。純粋な利害関係。ゆえに阻害されることはない。無害ゆえに無敵!)
センは、そんな風に思っているが、
しかし、実は、田中こそが一番の敵。
事実として、田中は、センのことを『信仰』しているわけではないが、しかし、『センエースは愛されるべきである』と認識している。
『これだけ頑張った人間が報われないなど、そんなことはありえない』と考えている。
『全員の愛を一身に受け止めて、受け入れること』こそが、世界に対して心身を奉げ続けたセンエースの、最大の義務である――とも考えている。
――ようするに、センは、完全に詰んでいるのである。




