76話 『みじめな道化師の仮面』は、最後の砦。
76話 『みじめな道化師の仮面』は、最後の砦。
裂けてしまいそうな心と体を、どうにか、両手でギュっと抱きしめるセン。ガタガタ、ガタガタ、といつまでも震える自分の体を、どうにか黙らせようと、『みっともないから、止まりやがれ』と、精神のハッパをかけるのだが、どうしても震えが止まらない。
ヨグとハスターが、いつも通り、順番通りに声をかけてきたが、相手をする余裕は皆無。
ただひたすらに、ガタガタと震えるばかり。
「タイムリープ、どうやった? うまいこと、いけた? って、どしたん? 寒いん?」
田中が登場して、呑気な声をかけてきた。
センは、前後の文脈をシカトして、
「……折れてねぇ……」
と、震えながら、事実を口にする。
「俺は……まだ……折れてねぇ」
奥歯がガチガチと鳴って、
目は虚ろで生気が感じられない。
素人目には廃人にしか見えないが、
しかし、それでも、
「折れてねぇ……折れてねぇんだ」
頑なに、センは言い続ける。
だんだん記憶を取り戻し、
ようやく現状を理解した田中は、
「……ほんま、すごいな、お前」
と、ただの本音を口にする。
「そうだ……俺は……すごいんだ……ほめろ、たたえろ……」
「……『褒めろ』言うたり、『褒めんな』言うたり、コロコロと意見の変わるヤツやなぁ」
「……賛美しろ……愛せ……歓喜しろ……喝采しろ……」
もちろん、本気で褒めてほしいわけじゃない。
ファントムトークで、自分の弱さをケムにまかないと、立ち上がれそうになかった。
だから、必死になって、無様なピエロで在り続けようとする。
『可哀そうな被害者』のムーブを取ってしまうと、動けなくなってしまう。
『みじめな道化師の仮面』は、最後の砦。
センエースの中心を守る最終防衛ライン。
「はぁ はぁ」
息を切らしながら、
震えながら、
それでも、
センは、
「折れてやらねぇ……ぜってぇに……」
――歯を食いしばって、這いずるようにして、経験値振りを開始した。
今回会得した経験値の全部を、もれなく、天下に分配していく。
とにかく耐久。
少しでも硬くする。
その上で全員にダメージカット系のスキルを覚えさせる。
ゴリゴリに硬くしていって、少しでも、守りやすくしていく。
――天下だけに絞ったとしても、経験値を全員に分配するとなると、それぞれ、約『500分の1』しか獲得できない。
経験値の獲得量がえげつないので、500分の1でも、間違いなく大幅に強くなったが、しかし、まだ神種が芽吹いていないため、どれだけ強くなっても、ダブル神化級の火力の前では、『肉眼では把握できなかった微生物』が、ちょっと太って、『ギリギリ見えるようになった』……という程度。
まだまだ、プチっと踏み潰されて終わりのゴミでしかない。
だから、
天下加入から数えて二回目の10年は、初回とさほど変わらず、普通に地獄だった。
今回の7年目が経過した頃には、
また、センはぶっ壊れていた。
「ギヘヘヘヒャヒャ」
ぐちゃぐちゃに引き裂かれた心身。
溜まりに溜まった疲労。
ここまで合計3000億年以上がんばってきた。
命の限界を超えて、超えて、超えて、超えて、超えて、超えて、超えてきた。




