70話 この指輪をはめる権利をやろう。
70話 この指輪をはめる権利をやろう。
「ここは、『王としての判断』を下そうやないか。『人の上にたつ者』として、『小事を切り捨てなあかん場面』もある。今回のコレは、その訓練や。ここらで、『切り捨て方』も覚えておいた方がええ。全部は守れんのやから。今の天上がおれば、戦力としては、まあ、十分。天下はおらんでもどうとでもなる。この分かりやすい状況を前に、冷静かつ正確な判断を下せ、センエース。それが王の責務。お前が、今後、ずっと背負っていく宿命や」
ごちゃごちゃとやかましい田中の前で、
センは、彼の胸倉をつかんだまま、
ソっと、目を閉じて、
深く深呼吸をした。
何度も、何度も。
――そして、
『濃厚な数秒』を経てから、
ガッと目を開き、
「条件を教えろ。どういうルールだ。ただ天下を殺すだけのいやがらせじゃねぇだろ」
「……『ただの天下を殺すだけのいやがらせでしかない』と言ったら?」
「お前を殺してでもルールを変えさせるだけの話。……お前が『便利な秘密道具』であることは認めるにやぶさかじゃない。お前と天下、どっちが高性能かという問いの前で、天下を選ぶやつは一人もいねぇ。が、しかし、お前と天下、『どっちを殺すか』という天秤を前にすれば、俺は秒で前者を選ぶ。なぜなら、お前は俺の潜在的な敵で、天下は、俺を輝かせるアクセサリーの一つだからだ」
などと、自供しているサイコパスの前で、
田中はニッと笑って、
「ほな、『この指輪をはめる権利』をやろう」
と、装飾なしの簡素なリングを投げ渡してきた。
受け取ったセンに、田中は続けて、
「そいつを指につけとる間、天下のダメージを全て肩代わりできる。ただし、お前が受けるダメージは全部10倍になる」
「……10倍……」
「外したかったら、いつでも外してくれてええ。お前の自由や。いや、お前は外さんか。ダメージ10倍ぐらいの縛りは、お前にとって、ベジ〇タにとっての重力10倍と同じやもんな。これは、さすがにぬるすぎたか。もっと、縛りの強度を上げた方がええかな? なぁ、どう思う?」
「確認していいか?」
「どうぞ」
「仮に、全体攻撃が天下の100人に当たったら、それぞれが受けるダメージの10倍ということで、結果的に『1000倍のダメージ』として、俺に降りかかる……という認識で合ってる?」
「まさに、そういうことやな」
「……『これまでは余裕で回避できた攻撃』が、全部、『スーパークリティカルで多段ヒットし続けるようになる』……という認識で……あってるか?」
「天下の連中が、ワシらの攻撃を避けられるわけないから、確実に、ほぼ全部がヒットするようになるやろうな。そう考えると、ちょっとだけ大変かな。でも、まあ、お前なら余裕やろう」
「……」
「何度でも言うけど、イヤやったら、指輪を外してくれればええ。別に、その指輪をはめることを強制する気は一切ない。全部、自分で決めてくれ。天下を見殺しにするか。それとも、テメェが全部の地獄を引き受けるのか」




