55話 守ってあげるからね。
コミカライズ版センエース、
12話配信記念!!
1日10話投稿!
本日の7話目!
55話 守ってあげるからね。
「喝采はいらない……賛美も不要」
反射だけで、言葉を返す。
「感謝も、理解も、共感もいらない……何もいらない……」
そんなセンの言葉に、田中は黙って耳を傾ける。
言葉の使い方を見失う田中。
何を言えばいいのか、さっぱりわからない。
自分の感情を整理することができない。
そんな田中の視線の先で、
センは、
「いらない……何も……俺は……ただ……」
ハッキリと、無意識のまま、
シッカリと朦朧としたまま、
とことんまで、虚ろなまま、
『全ての弱い命』に向けて、
かざりのない本音を告げる。
「……まっすぐな命が、幸せに生きてくれれば、それでいい……」
「……」
「それを邪魔する悪い敵は……ぜんぶ俺が……やっつけてあげるから……だから……何も心配しなくていいからね……大丈夫だからね……」
「……」
「……ヒーロー……見参……」
真っ白にうなだれているセンの、こぼれおちた『ただの本音』を前にして、
――田中は、涙を流した。
みっともないので、出来れば止めたかったのだが、
しかし、どうあがいても止まってくれない雫。
まばたき一つせず、まっすぐに、ずっと、センを見つめている、泣き虫の瞳。
感情の暴走を、どう処理すればいいのか分からない。
賢者と愚者の差は、感情の処理の仕方で決まるというのに、
しかし、今の田中は、自分の想いを、まったく、うまく取り扱えない。
……誰も何も言えない、静かな時間が、十数分ほど過ぎた時、
センの目に、少しだけ、生気が戻る。
『気づき』を経て、無意識からの解放。
「……ぁ」
自分が、『個人的』に『すごくみっともない言葉をこぼしている』ということに、気付いて、ボっと、顔を赤くして、
「……ちがっ……今のなし! 全部うそ! うそだから! 俺は最強になることだけを考えて、毎日を生きているから! そのためなら、愚民どもから命を搾取することすらおしまない! 狂気の沙汰ほど美しい! で、最終的には、大金とハーレムとうまい酒とでかい家と、それと、全ての命を下僕にした夢の支配者生活をゲットしたいだけだから! 肉欲と物欲と最強欲だけが俺のジャスティス! 俺は俺のワガママだけを愛する孤高のボッチファンタジスタアだから! これが俺の本音だから! 絶対に勘違いするなよ! 『勘違いしないでよね』の方じゃなく、ガチの方だから!」
「……ああ……もちろん……わかっとるよ。全部……ちゃんと……」
「どっから飛び出したのか分からない『さっきの妄言』は、綺麗さっぱり忘れろ、田中。たぶん、どっかのパラレルワールドから飛んできた毒電波だ。まったく、酷い奴だよな、毒電波ってやつは。……というわけで、田中、ここ数分間における俺の言動を、全部カンペキに忘れてくれ。いいな、これは男と男の約束だぞ」
「ああ……」
返事をしながら、しかし、
裏で、田中は、
『アカシックレコード(名状しがたい、『コスモゾーンの海馬』のようなもの)』の深部にアクセスし、
センエースの今日の姿が、完全に保存されているかどうかを確認する。
どうやら、アカシックレコードも震えているようで、
『センエースの想い』だけは、誰が何をしようと、絶対に奪えないように、
最大級のリソースを裂いた上で、厳重に、何重にもロックした上で保管している。
センエースは、のちに、この黒歴史を、全力で排除しようと動き出すのだが、しかし、最果てに辿り着いたセンエースでも、この黒歴史を削除することはできなかった。
アカシックレコードの本気に対して、センは『そんなに俺を辱めたいのか!』と全力で怒り狂うことになるが、それは、また別の話。




