54話 何もいらない。
コミカライズ版センエース、
12話配信記念!!
1日10話投稿!
本日の6話目!
54話 何もいらない。
センはグッタリしている。
疲れ切ったその目に生気はない。
意識があるようには見えない、濁った眼。
朦朧としていて、電池の切れたカラクリ人形みたい。
まるで、倦怠感という概念そのものに包まれているよう。
呼吸もかなり浅いし、脈も遅くなっているので、死んでいるのと、実は、そこまで大差ない状況。
角度によっては『真っ白な灰になってしまったように見えなくもない』――という、心が徹底的にズタボロの状態。
指一本動かすことができず、ただジっと、ここではないどこかを見つめている。
――250億回(2500億年)のループ。
とことん頭がおかしい、信じられない数字。
それだけ長い時間、ずっと、休みなく、地獄のカマの底を這いずり回ってきた。
『どれほどの罪人であろうと、これほどの責め苦を受けることはない』と断言できる。
そんな地獄と、延々に向き合い続けた男の成れの果て。
ただ、黙って、ジっと虚空を見つめているセンに、
田中が、
「タイムリープ、どうやった? うまいこと、いけた? いい感じに殺された?」
と、いつものノリで声をかけてきた。
センは、黙ったまま、『田中の頭に記憶がぶちこまれる』のを待つ。
一定の時間が経過したところで、
田中は、
「……あ、だんだん、記憶も回収できてきた。えっと……今が……257億309万2008回目か……すごい数やな。ようやってるわ、ほんま」
と、そんなことを言う彼に、
センは、うつろな目で、
「……お前も……すげぇよ」
「意外なことを言ってくれるな。おどれがワシを褒めるとは。青天の霹靂」
「……お前だけじゃない。……全員……すげぇ……かっけぇよ……」
「いや、ワシらの場合は、毎回、リセットされとるからなぁ。……肉体的にも精神的にも普通にガッツリとリセットされとるから、一ミリも疲れてへん。ここから頑張るにしても、たかが10年やから、別に、そこまで疲れへんし……いや、まあ、もちろん、しんどいことはしんどいけど、お前のしんどさとは比べ物にならん」
「……関係ねぇよ、リセットとか……お前らが……合計で2500億年頑張ったのは事実だ……俺は、ずっと見てきた……お前らは、全員……ちゃんと頑張った」
「……」
「すげぇなぁ……ほんと……すげぇよ……よく頑張った……えらいよ……」
焦点の定まっていない目で、どこか遠くをみつめながら、
ほとんどヌケガラみたいにうなだれているセンに、
田中は、
「……お前や、センエース。すごいのは、たった一人、お前だけ」
ただの本音をぶつける。
「ほかの誰にもマネできん。お前こそが、命の王。お前がおる限り、他の誰にも、その称号を名乗る資格はない。すべての弱い命のために、決死の覚悟で、その身を奉げてくれたこと、すべての命を代表して礼を言う」
「……いらない……」
センは、うつろな目で、完全なる無意識なままに、
「喝采はいらない……賛美も不要」
反射だけで、言葉を返す。
「感謝も、理解も、共感もいらない……何もいらない……」




