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37話 とにかく苦しいセンエース。


 37話 とにかく苦しいセンエース。


 ありとあらゆる鍛錬を、何度も、何度も、何度も、何度も、繰り返した。

 そうやってたどり着いた50億年。

 センは、時計を見て、


「……まだ折り返しでもないのか……」


 崩れた魂が弱音を漏らす。

 何より地獄なのは、


「今回の140億年を乗り越えても……来週には……また……」


 脳が一瞬で沸騰するような絶望感に襲われた。

 視界がグニャグニャとゆがんで意識が朦朧とする。



「……ちょっと、待って……ほんとに……これは……ちょっと……キツすぎるって……」



 『フラついた足元』を支える気にもならなかった。

 糸を失った操り人形のように、その場にガタリと崩れ落ちる。


「うぼぉぇっ……」


 続けて、豪快なゲロを吐くセン。

 これまでにも、何度か、『自分の運命』を直視してゲロを吐いてきた。


 何度吐いても、慣れない。

 どれだけの時間が経っても、この地獄に対してだけは、体も心も、全然慣れてくれない。


 とにかく辛い。

 とにかく苦しい。


 永遠に終わらない無限地獄を前にして、

 センの心身は限界を超えてボロボロになっている。


 どれだけわめこうと、

 どれだけ泣き叫ぼうと、

 この地獄は終わらない。


「……シューリ……アダム……」


 うずくまって、愛する女の名前を口にする。

 それ以外に『頼り』がなかった。

 みっともなく『心の支え』にすがる無様な姿。


 とてもヒーローとは思えない小さな背中。

 縮こまって震えている惨めなザマ。


 センは、


「……ぅぅ……ぅううう……」


 ギリギリと奥歯をかみしめて、


「……まだ、だ……」


 まっすぐに前をにらみつけて、


「まだ、俺は頑張れる……そうだろ……『S・A』……」


 忌避しているはずの作品のキャラに向かって、そう声を投げかけるセン。

 センは、間違いなくS・Aに対して嫌悪感を抱いている。

 だが、こういう時、なぜか、センは、心の中で『彼』を想う。


 極めて異質な話。

 しかし、異質かどうかなど、極限状態のセンにとってはどうでもよかった。


「まだ舞える……俺は、まだ……」


 『S・A』を通して自分を俯瞰で見つめるセンエース。

 そうすることで、なぜか、一つ、奮い立つことができた。

 極悪なマリオネットゲイザー。

 『終わり』も『答え』もない道を、

 観測者は、ひたすらに、手探りで、模索しつづける。






 ★






 ――60億年が経過した。

 センは、今、図書館の禁書エリアにいる。

 はじめてここにきて以降、センは、定期的に、

 『異世界転生はもう飽きた』を読み返している。


「……やはり、お前は俺とは違う……『S・A』……」


 主人公『S・A』の行動に対し、

 センは、ずっと、嫌悪感と疑問を抱いている。


「俺が守りたいのは、俺にとって大事なものだけだ……『顔も名前も知らん他人』のこととかどうでもいい」


 本音を並べていく。

 そこに『何の意味があるか』は誰にもわからない。


「……『大人』なら、てめぇの身はてめぇで守ればいい。ガキなら、親に守ってもらえ。『親に守ってもらえないガキ』は、諦めて死ぬか、死ぬ気であがいて、その地獄から抜け出すしかない。出来なければ死ぬだけ。それがこの世界の摂理。単純な話だ」


 『自分の人生』に照らし合わせて、モノを考える。

 自分の中の人生観がかたまっていく。



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