46話 羽虫が相手なら、赤ちゃんでも、指一本で押しつぶせるだろ?
46話 羽虫が相手なら、赤ちゃんでも、指一本で押しつぶせるだろ?
この8年間、ピクリともせず、ひたすらバリアをはって耐えるだけだったセンが急に動き出したので、当然、配下たちは、一瞬、ビクっとはしていたが、しかし、みな、精神力がハンパない連中なので、すぐに、『動く標的を殺すモード』へと頭と体を切り替える。
苛烈になる配下たちの攻撃。
田中も、全力で、センを殺そうと命を燃やす。
そんな彼らの動きに対し、
センは、スっと目を閉じて、感覚を閉ざすのと同時に研ぎ澄ます。
そのまま、艶やかに、ヒュンッと、跳ねるように舞うセンエース。
『無意識をコントロールする』という矛盾を魅せつけながら、すべての攻撃をジャスト回避しつつ、田中の肩に、ソっと触れる。
(……なんや?)
敵意も害意もなく、本当に、ただソっと、なでるように触れただけだったので、田中は、センの意図を見失う。
田中の問いかけに対し、センは、
(悪いけど、ちょっと我慢してくれ。『大事な配下』では試せない。そういう意味で、お前がいてくれ、本当によかった)
(は? ――っぐっっ!!)
疑問符を抱いた直後、
田中の腕が、破裂して、粉微塵に吹き飛んだ。
配下たちが、田中の心配をしている。
中には、センに対して報復の攻撃を開始している者もいる。
そんなあわただしい喧噪の中、
センの心は、とても静かで、
(悪かったな。痛かったか?)
(痛いにきまっとるやろ……てか、今、何した? 触っただけちゃうんか? なんであんな――)
(……羽虫が相手なら、赤ちゃんでも、指一本で押しつぶせるだろ? それだけの話だよ)
(……)
(少しだけ理解できた。簡単に言うと……俺はイップスになっていたんじゃない。いや、まあ、その気もなかったわけじゃないんだが……動けなかった理由の本質はそこじゃない)
(ほな、なに?)
(俺は、ダブルを、完全に制御しようとし過ぎていたんだ……この強大な出力を、完全に支配しようと無意識のうちに欲をだしていた……だから、理解という土台作りに、こんなにも、大量の時間がかかってしまった。なんていうか……最大級の経験値をレベル1に注いで、その爽快感を味わいたい……みたいな感覚が近いのかもな。それが、無意識化におこっていた……ふざけた話だ。自分自身の話でありながら、普通にイラつくという、謎の自己憐憫……俺は、もう、本当に、俺がわからない)
(何言うとるか、ちょっと、マジでわからんのやけど。いつも、たいがい、お前の発言は意味不明やけど、今日はとくに)
(安心しろ。田中)
そこで、センは、ニっと太陽みたいに微笑み、
(俺も、いまいち、よくわからん)
そう言いながら、
センは、田中の下半身を、
「どっぐぁああああっっ!!」
なでるようにして、吹き飛ばす。
(……だいぶ抑えたんだが、これぐらいでも木っ端微塵になるか……脆いな……しょっぱすぎる)
(……な、なかなかおもろいこと言うてくれるやないか……)
欠損治癒で即座に再生させつつ、
恨みがましい目でセンを見る田中。




