45話 イップスは突然に……
45話 イップスは突然に……
キッチリと30分が経過したタイミングで、ヨグナイフが、センの額にブスっと突き刺さる。その瞬間、センは、イっちゃっていた目を、ギロっと、熱のある目に戻して、当然のようにダブル変身をかましていく。
完全に正気ではないし、精神は、事実、かなり歪んできている。
しかし、それでも、己がたてた『誓い』からは目を背けない。
それは、この30分ルールだけに限った話ではない。
センエースは、ずっと、『自分自身が掲げた誓い』を守り続けてきた。
どんなに苦しくても、
どんなに辛くても、
センは、折れることなく、自分自身と向き合い続ける。
だからこそたどり着く世界がある。
たぶん……きっと……おそらく……
★
――イップス発症から『30億年ちょっと』が経過したところで、
ある日、突然、
……センの体躯は活動を再開した。
ダブル変身状態でも、普通に動けるようになっていた。
……本当に、ある日、突然。
別に、何か特別なことをしたわけでもないのに。
その謎状況に対し、センは、
(……もう、わからん……知らん。もういい……めんどい……しらん、しらん……)
理解することを諦めた。
散々、色々とためしてきて、どの方法も効果がなかったのに、
本当に、ある日、突然、スっと体が動いた。
イップスの業界では、稀によくある現象。
『一生、イップスに悩まされて、そのまま死ぬ者』も多いが、
ある日、突然、何の前触れもなく、ふいに治ることもある。
あまりにも謎すぎる現象。
けど、フィクションではなく、事実、そういう現象が世界には散見されている。
本当に意味不明。
けれど、そういう意味不明を積み重ねているのが、この世界という現実。
(わからんけど……もう、いい。考えるだけ無駄だ)
その辺の、理不尽全部を飲み込んだ上で、
センは、
(……体の鈍り方がハンパないな……まあ、しゃあないけどなぁ……こちとら、30億年ぐらい、ずっと、パンチの一つも打ったことがねぇんだから……)
心の中で、そうつぶやきつつ、
殴り掛かってきた田中の背後に回る。
そのムーブを見た田中は、
(おっ、なんや、ついに動けるようになったんか。よかった、よかった。しかし、えげつないぐらい時間がかかったのう)
ちなみに、今回のループでは、すでに8年ほどが経過している。
殺された回数は7回ほど。
だいたい、一年に1回は殺されているペース。
ドリームオーラの扱いだけに集中し、『ころされないこと』だけに完全専念した場合、『10年間、一度も死なない』ということも可能。
――だが、この時点でのセンにとって大事なことは、
『死なないこと』ではなく『動けるようになること』だったので、
『ちょいちょいミスって死ぬのは仕方ない』というモチベーションになっていた。
ちなみに、8年間、ピクリともせず、ひたすらバリアをはって耐えるだけだったセンが急に動き出したので、当然、配下たちは、一瞬、ビクっとはしていたが、しかし、みな、精神力がハンパない連中なので、すぐに、『動く標的を殺すモード』へと頭と体を切り替える。




