43話 センエースロス。
43話 センエースロス。
「このままだと、閃拳の打ち方すら忘れるんじゃねぇか……てか、閃拳ってどうやって打ってたっけ? そもそも、閃拳って、どういう技だっけ? 確か、キックだったか? それとも、タックルか? まさか、ただの正拳突きってことはないよな。俺の奥義を代表する技が、まさか、ただの正拳突きだなんてオチはありえないよな。いやぁ、ないない。そんなわけがない。俺は、もっと、味わい深い、凝った男だよ、うん」
などと、どうにか、心を軽くするための、セルフファントムトークを乱舞させる。
この7000万年の間、センは、ありとあらゆる手法を使い、魂の病気を治す方法を模索してきた。
だが、なかなか、前に進めない。
この病気は、あまりにも根強い。
何千億年分の積み重ねを経た上でのイップス。
その重さは想像を絶する。
「……やばいなぁ……いい加減、なおってくれよ……マジでやばいって……」
『焦り』は、魂の病気を、より強固にしていく。
完治を求めれば求めるほどに泥沼化してしまうのが、この病の厄介なところの一つ。
病を意識すればするほどに症状が深くなり、
強く治療を求めるほどに、より重たくなっていく。
そんな、この病の真理に気づいてきたのが、だいたい1億年ほど経過したタイミング。
それだけの長い時間をかけたが、まだ、センは自分自身の弱さと向きあえ切れずにいる。
自分自身の弱さを、信じられずにいる。
自分はもっと強いはずだと、誤解をしている。
責任感の強さと、根性の破格さが、センの心を引っ張っている。
(命ってのは、本当に完成しねぇんだなぁ……何千億年も生きてきたのに、イップスの一つもなおせねぇ……俺の魂なんざ、結局のところ、そこらの中高生と大差ねぇ……)
自問自答。
自虐。
反省。
改善点の列挙。
修正の挑戦。
考察。
客観視。
あらゆる角度から、自分を分析したが、
しかし、届かない。
1億、2億、3億と、時間を闇雲に浪費して、
そして、ついには、イップス発症から10億年が経過したが、
いまだに、センは、ダブル中、ピクリとも動けずにいた。
「10億年も経っちゃったよ……ははっ♪ 小気味いいねぇ♪」
もはや、自嘲しか出来ることがなくなった。
できる手はすべてうって、もう、術の全部を失ってしまった。
「……終わったな……もう、世界は終了だ。このまま、俺が、無抵抗のまま死に続けるという、ただ、それだけが繰り返される。まあ、それなりに悪くない最終回だったんじゃないかな。そういうエンディングも、なかなか風情があって、いとおかし。というわけで、さようなら、リスナーのみなさん。今日まで、ずっと、付き合ってくれてありがとう。この長かったラジオ放送も、今夜で最後です。毎晩、帯で放送し続けてきたこのラジオ番組『センエースの危険がデンジャラス』。好評いただけておりましたが、総合司会の私の心が折れてしまいまして、残念ながら、今夜で最終回となってしまいました。けど、センエースロスにはならないで。大丈夫。皆さんの心の中で、俺は、ずっと、あなたからの『お便り』を読み続けることでしょう。では、さようなら。また、合う日まで。今夜のお相手も、あなたの心に舞い散る閃光、センエースでした。ハブァ、ナイスデェ」




