19話 この上なく尊き、反逆の意志。
19話 この上なく尊き、反逆の意志。
「『やらない』って、こんだけ叫んどるってことは……あいつの中におる『強いあいつ』は、『やったんぞ』って、ずっと叫んどるってことやろ? ワシやったら、絶対に無理や……ワシもやってみたことはあるけど……イタズラな領域外の牢獄は、マジでエグかった。まあ、もちろん、ワシに対しては完全な状態で機能せんけど」
それでも、田中は『イタズラな領域外の牢獄』こそが、最強級の地獄であると評価する。
「……サイコジョーカーとか、タイムリープとか、ソレ系は、もう、『自分がどんだけ頑張るか』っていう、それだけやけど……イタズラな領域外の牢獄は、その、『頑張ろうとする気持ち』を全力で殺してくる。この領域の中で、ちょっとでも『頑張ろう』と思おうもんなら、その感情に対して、弱い自分が、『親の仇か』ってくらいの勢いで、ボッコボコに攻め立ててくる」
『頑張ろうとする気持ち』そのものを徹底的に抑えつけられてしまうと、
人は、流石に動けなくなる。
「……イタズラな領域外の牢獄を経験しとる間、ワシは、一歩も動かれへんかった。動くどころか、立ち上がることも無理やった。いや、もう、動くとか立つとか、そういうレベルやなく……喋ることすら、まともに出来んかったな……」
体験した時の事を思い出す。
自分の『心』が殺されていくあの感覚。
『イタズラな領域外の牢獄』を『単発』で体験している間、田中は普通に、
『これをサイコジョーカーと併用で背負って、数百億回、タイムリープ? アホかぁ……できるわけないやろ』
と、純粋にそう思った。
田中は想う。
自分では、口を開く事さえできない、と。
完全な無気力の廃人になるしかない、と。
イタズラな領域外の牢獄とは、そういうものである、
――と、経験者は語る。
経験者は詳しいんだ。
「よくもまあ、あんだけ、力いっぱいに叫べるわ……ほんまに……あれだけでも、とんでもない偉業やで。絶対に無理やからな。ヨグ、お前でも、絶対に無理やで」
「理解できている。イタズラな領域外の牢獄に耐えられる者は存在しない。あれは、心を殺しつくす領域。心を殺されてしまえば、命は停止するしかない」
「それは言い過ぎちゃう? 『心を持たん神格』でも、自由に動き回っとるやつ、ぎょうさんおるけど?」
「本能というプログラムに従って機械的に行動を起こす者はいるだろう。しかし、反逆の意志をもって運命に抗うことはできない。センエースは、今も、なお、くそったれな運命に対する反逆の意志を示し続けている。あれほどの魂を持つ者を、私は他に知らない」
「……もちろん、ワシも他に知らんよ。なんせ、絶対におらんからな」
などと、二人が対話していると、
そこで、
センが、掛け布団を蹴り飛ばした。
バサァっと、天を舞う、かけ布団。
田中とヨグとハスターの視線が、
センのベッドに釘付けになる。
「うぎぎぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
センは、ギリギリギシギシギニギニと、奥歯をかみしめながら、
「くそがぁ……ふぅうう……ふぅうう……」
何度も、何度も、深く、熱く、重く、深呼吸を繰り返してから、
「……絶対にぃいいい! 折れてやらんぞぉおおお! くそがぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
異常な覚悟を叫ぶ。
この光景が、どれだけ異常なのか、
正しく理解できているヨグは、
「私は、今、猛烈に感動している」
と、センにならって、テンプレをぶちこむ、
――というチャラい風を演じつつも、しかし、内心では、本気で感動していた。




