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32話 ヒーローはいないから。


 32話 ヒーローはいないから。






「……は、は……はは……ひゃははははははははははっ!」






 ――人の限界はとっくに超えている。

 なんだったら、神の限界も超えているかもしれない。

 センエースにも『限界』は存在する。


 ――もう立ち上がれない。

 『本気でそう思うほどの絶望』の『底』で、

 センは、自分自身を嘲笑し続ける。


 『バカ笑い』を『一時停止の標識』にあてて、『痛恨の陰鬱』に明け暮れる。

 洒脱で老練な、非整合性の照合が、

 クルクルと、『精励せいれいの器』を奏でてみせる。


 ――ここは、『滑稽な廃棄物』の集積場。

 ――堅牢な調和が、ホロホロと崩れていく。


「あぁあ……あぁあああああ……ぁああああああっっ」


 傾斜のついた涙腺が、泡立ったような光彩を放つ。

 『細胞の風物詩』みたいな『下水道の計量スプーン』で、

 その無様な適量を量ったりなんかしてみたりして、

 けれど、何も分からなくて、

 まるで、反社の酒気帯び運転みたいに、

 ただ、ぐらぐらと、スリップ間近の蛇行を繰り返している。



「もういやだ……死にたい……」



 脳が乱れる。

 全部が狂う。


「俺、とっくに折れているだろ……なぜ、灰にならない……?」


 世界に問いかける。

 ナイトメアソウルゲートは応えない。

 世界は、センに優しくない。


「俺は……どうして、まだ終われない……?」


 世界に問いかけるのをやめる。

 自分だけに聞いてみる。

 自分は答えを知っているのかな?

 分からない。

 なにも。


 答えなんて、あるとは思えない。

 どうしたらいい?

 何をしたら正解?

 しらない。

 何も。

 本当に分からない。


 グルグル、グルグルと、

 頭の中で、時間の彗星だけが、甚大な災禍さいかになっていく。


 まるで、愛妻家の朝顔みたい。

 摩擦係数を失った日当たり良好がコシヒカリを秒殺している。

 ――何言っているか分からないって?

 大丈夫。

 誰も、わかっちゃいねぇから。

 意味なんてねぇ。

 言葉にも、時空にも、概念にも、信念にも、

 『意味なんて、あってたまるか』と、

 吐き捨てることしかできなくて……

 ――だから――


「誰か……助けて……」


 救いを求めた言葉が霧散していく。

 『いたずらな質量』を、霊峰れいほうで告発するみたいに、

 なんの意味もない『一時的な振動』として処理される。


 崩れていく。

 自分で分かる。


 ――なのに、どうして、灰にならない?


「……誰も助けてくれない……」


 『誰よりも知っていること』を、センは、あえて、口にした。

 誰も助けてはくれない。

 この世界にヒーローはいないから。


 ヒーローなんてものは、どこにも存在しない。

 そんなものは、愚かしい幻想にすぎない。


 世界は残酷で、ただの薄っぺらな『1』と『0』の集合体に過ぎない。



「それなのに、なんで……」



 気づけば涙は止まっていた。

 かみしめた奥歯の痛みだけが、『今を包み込む感覚』の全部になる。

 よけいなものを頭から消して、単純な衝動と、明快な感情だけに身を任せると、

 心の形が、少しだけ分かったような気がした。

 もちろん、

 分かったような気がしただけで、

 本当は、何もわかってなどいない。

 わかるはずなどないから。


「どうして……」


 問いかける相手すら見失って、

 もはや、『自分に問いかけているのかどうか』すら分からなくなって、


 そうして、ようやく、






「…………ああ…………簡単な話だ……俺は、まだ……終わりたくないんだ……」






 センは立ち上がる。

 繰り返してきた痛みと向き合う。


 絶望の壁にぶちあたり、心折れそうになって、

 けれど、歯をくいしばって、必死に踏ん張って、

 倒れそうになる体を、全方位から抑えつける。


 そうやって生きてきた。

 何度も、何度も、壁にぶつかって、

 時には迂回して、時にはよじのぼって、時にはぶっ壊して、



「……ナメんじゃねぇぞ……」



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