前編
君たちは攻めの反対はなんだと思う?
“受け”
と答えた君たちは立派な“腐”の素質がある!
素質……もしかしたら洗脳によるものかもしれないが
本来は攻めの反対は“守り”だ。
……が、ボクも最初質問された時は受けと答えてしまった。
ボクも腐の住人……ふふふ。
ちゅっ!
「ん!?」
いきなり同級生のマリナにキスをされた。
悪くは無い……いや、だけど私のファーストキスが奪われた。
「ちょっと! なんでいきなりキスしたのよ!」
「だって……」
「だってじゃない! 私のファーストキスよ?」
「そっかぁ~。えへへ」
「何笑ってるのよ」
「カオリの初めて貰っちゃったから」
マリナの小悪魔のような可愛げな声に心臓がドクンと高鳴った。
完全に相手のペースに飲まれている。
確かにマリナはかわいい、けど……本来女性は男性と恋に落ちなければいけないはずだ。
けど、最近は同性愛とかもあるっていうし……うーん。
マリナとこれからずっと一緒に……いやいや、私は子供が欲しいから男の人と順序を踏んで婚活、結婚、妊活と頑張らないといけないし。
「カオリ……」
「な、なによ」
「私とカオリは同性。女同士だけど付き合ってもらえないかな?」
「え……」
当然すぐに答えを出すことなどできない。
傍からみたら女性同士付き合うなど後ろ指を指される行為だからだ。
お遊びで付き合うならいいかもしれないがマリナの雰囲気から察するに真剣なお付き合いだと思う。
「マリナの気持ちはうれしい。けど今すぐには答えは出せない」
「うん。わかった」
「でも私たち同性愛者になるってことだよ? 傍から見たら普通じゃないことはわかってるよね?」
「そんなことはわかってるよ!」
普段大人しく静かなマリナが声を荒げた。
思いもよらない行動に反射でビクッとなってしまった。
少しの沈黙が流れマリナが口を開いた。
「そんなのはわかってる、わかりきってるよ。
昨日の夜真剣に考えた。世間や親、友人、知り合いからの目。
カオリにキスをして本気で逃げられたら諦める。そう思ってた、けどカオリ逃げなかったよね?
嫌だったら普通どんなに仲のいい友達でも逃げるはずなんだ。
普通の生活はできなくなる可能性だってあるけど……それでも私はカオリといたいの!」
「やっぱり少し考えさせてくれないかな?」
「私じゃダメ……?」
「誰もそんなこと言ってないでしょ! 私も付き合うんならマリナがいい!
その……初めてのキス……奪われたし」
「じゃ、付き合——」
「だ・か・ら! 気が早いって。
明日返事するからしっかり考えさせて、ね?」
「わかった。絶対だからね? もし振ったら泣くから」
「それは卑怯でしょ。OKするかもしれないし振るかもしれない。
それはまだ私もわからないから、しっかり考えて後悔のないほうを選択するよ。
でも、マリナのことは嫌いじゃないし好きだよ。だから期待して待ってて」
「うんっ! 約束」
「小学生かよ。はい、約束」
小学生以来やったことのなかった指切りをしてその日は解散した。
正直恋愛に関してはド素人だ。
どうすればいいのか右も左もわからない。
けど、今までの一人で辛かった時、寂しかった時をマリナと二人で分かち合えることができる。
もちろん嬉しいことも楽しいこともだ。
中学は部活一筋、高校も女子生徒ばかりで大人になるまで恋愛とは縁のない生活を送るものだと思っていたけどいきなり例外的恋愛経験を体験することになるとは……人生何が起きるかわからないから面白い。
答えは最初から決まっていた。
いや、決めていた。
初めてを奪われたし、ほかの私の知らない初めてを奪われ奪おうと思う。
明日の昼休み、マリナを校舎裏に呼び出そう。
そこで返事をしてマリナを思い切り抱きしめる。
——翌日
マリナに話があるからお昼休みに校舎裏に来てと伝えた。
お昼をササッと食べ終え走って校舎裏に向かう。
校舎裏に到着するとマリナはまだ来ていなかった。
マリナが来るまでの時間。
一分一秒がとても長く永遠のように感じた。
焦る気持ちも押し殺し、深呼吸をしてゆっくり待った。
5分ほど待っただろうか。
校舎裏に足音が近づいてくる。
足音の方を見るとマリナだった。
「ごめん、待った?」
「ううん、全然待ってないよ」
嘘は言ってない、むしろ少し待ったおかげで心の準備が整った。
「早速返事聞かせてもらってもいい?」
「あ、あのさ! 本当に私たち付き合うの?」
「うん。付き合うよ」
「付き合うってさ……その、本当の恋人になるんだよね?」
「うん! ずっと一緒。高校卒業したら一緒に部屋決めて一緒に暮らすの」
「そっか。そうだよね」
「だから私はカオリとずっと一緒にいたいの! 楽しいも悲しいも全てをカオリと共有したいんだよ! だから私と真剣に将来を考えてお付き合いしてもらえないですか?」
ずるい……ずるいよ。
それじゃプロポーズと変わらないじゃん。
正直断る理由もないしマリナと一緒にいることが出来るなら楽しい思い出がもっとたくさん作れるかもしれない。
「わかった。こんな未熟者ですけどよろしくお願いします」
マリナに返事をして優しく抱きしめた。
マリナも抱きしめた私を包み込むように抱きしめてくれた。
右手をマリナの顎にあて今度は私からキスをした。
最初は軽いキスのつもりだったのだが唇と唇が触れ合っていた時間が長くお互いがお互いを求め始めてしまった。
気がついたら舌と舌が絡み合うフレンチキスになっていた。
マリナを喜ばせたい、独り占めしたい、マリナ全てを私だけが独占したい。
そんな普段の自分にはない感情に取り憑かれていた。
何分経っただろうか。
スマホを確認すると次の授業時間まで10分ほどになっていた。
「ねぇ……」
マリナがとろけた目で妖艶に話しかけてくる。
「な、なに?」
「午後の授業サボってカラオケとか行かない?」
「サボりはダメ……だけど、今日だけ特別に休もっか」
断れなかった。
いや、断りたくなかった。
先程のキスで脳に快感が焼き付き、更なる快感を求め始めてしまっていた。
次は? 次は一体どんな快感が、どんなことをしてもらえるのか。
ドキドキとワクワクで心臓が爆ぜる寸前だ。
お昼休みがあと数分で終わるというとこで講師と担任に体調が悪いので早退をしますと嘘を付いてマリナと一緒に帰ることにした。
少し離れた場所にあるバス停で待っている間、罪悪感で押し潰されそうになったがマリナが、大丈夫。私も同罪から、と笑って和ませてくれた。
お昼に乗って帰るバス、正確には帰らず遊びに行くんだけどいつもと違う時間帯に乗っているためいつも見ているはずの景色が新鮮に感じられた。
「カオリはどこか行きたいところある?」
「私は特にないかな」
「じゃあ、まずゲーセン行こ!」
「うんっ!」
ゲーセン近くのバス停で下車して制服のままゲーセンで音ゲーやクレーンゲームをした。
音ゲーなんて初めてで何をどうしたらいいのかわからずにいるとマリナが操作方法を1から10まで丁寧に教えてくれた。
こんなことを言ったらマリナに失礼だけど勉強以外を教えることに関しては天才的才能を発揮する。
クレーンゲームもどこを狙えば景品をゲット出来るのかをアドバイスしてもらいながら自分の操作で初めてフィギュアやぬいぐるみを獲得することが出来た。
「ねぇ、最後に記念としてプリクラ撮ろうよ」
マリナが記念としてプリクラを撮ることを提案してきたので迷わずOKした。
プリクラなんて何年ぶりだろう。
最後に撮ったのは中学生の夏休みだっただろうか。
私たちが選んだ機械は最初の設定画面でキレイに大人っぽく見せるか、幼く見せるかを選んで自分好みにカスタマイズ出来る機種だった。
マリナは大人っぽくを選択した。
私が幼くを選ぼうとしたところ、もう一回撮るからさ今回は二人とも大人っぽくで撮ろ、とマリナが提案してきた。
うん! と元気に返事をしてプリクラ機が指示した通りのポーズでどんどん撮っていく。
懐かしいと思う気持ちと楽しい、新鮮な気持ちで埋もれそうだった。
一通り撮り終えると次は落書きタイム。
女子力が試されると言っても過言ではない。
……けど、人生で落書きなんてしたことないんですけど!? 今までは他の人に丸投げだったし。
とりあえず、スタンプをそれとなく配置して……っと。
ふと気になりマリナの方を見ると落書きに夢中で終始笑顔で描き進めていた。
そうだ、何も気にする必要は無い。
とにかく今はマリナとの時間を楽しまないと! 上手い、下手は二の次だ。
お互いに落書きを終え終了ボタンを押す。
次に分割方法、どれをスマホに送るかなどを選択して印刷されるのを待った。
印刷されるまでの時間が微妙に長く感じられた。
授業の終わる間際と言い待ち遠しく感じてしまうのは私だけだろうか。
液晶画面に100%と表示されるとプリクラが印刷されて出てきた。
「さ、もう1枚撮るよ!」
「うん!」
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