─その後SS─
ふたりの子どものお話を書きたいとずっと思っていたので、ここまで書けてよかったです。
これも数年前に投稿した作品を今でも読んでくださっている皆様のおかげです。
ありがとうございます。
※投稿後、マティアスのキャラクターがあまりにも崩壊していたので内容を加筆修正しました。
マティアスは書斎の窓際に立ち、外の穏やかな風景をぼんやりと見つめていた。
庭に目を向ければ緑が広がり、空に目を向ければ青が広がり、その優しい色が心を落ち着かせる。
しかし、その穏やかさや静けさとは裏腹に、マティアスの心には波紋が広がっていた。
───「マティアス、わたくしたちに赤ちゃんができたの」
妻─クロエの言葉は、喜びや驚きと共に深い不安をマティアスにもたらした。
─果たして自分は愛をもって子供を育てられるのか、愛されない存在になってしまうのではないか。
自分のこの顔の痣により、人より少し違った扱いを受けてきたことは実感している。
両親は自分に愛情こそもってくれていたと思うが、腫れ物に触れるようにどこか余所余所しさを感じていた。
心ない言葉を浴びてきたし、クロエ以外から“愛”を感じた経験が乏しいのだ。
─だからこそ、そんな恐れがマティアスの心を締めつけていた。
しかし、クロエの体調を気遣い支え、順調にお腹が大きくなるにつれ、その不安や恐れは薄れ、確かな愛情が膨らむのを感じていった。
お腹を優しく撫で、お腹の中にいるまだ見ぬ我が子へふたりで穏やかに話しかける時間はかけがけえなく、愛おしかった。
胎教にいいと聞けば、絵本を大量に購入し、読み聞かせた。
─時折胎動を感じる度、つい涙がこぼれそうになった。
───子どもが産まれたとき、マティアスは腕に抱く小さな命に対する愛情がとめどなく溢れ、薄れてこそいたが、どこかこびりついていた不安や恐れがすべて綺麗に消えていくのを感じた。
マティアスは自分たちふたりのかわいい子どもの為に沢山の服を買い揃えた。
読み聞かせていた絵本以外に、おくるみや玩具、その他用品こそ買い揃えていたものの、子供が産まれてきてからそれに更に拍車がかかった。
小さく、そして愛らしいデザインの服が、そしてそれを着た我が子への想像がマティアスの心を踊らせた。
今でさえ天使のような愛らしい我が子の、その将来の姿を想像するだけでも楽しいのだ。
ある日、子どもの服が山のように積まれた─正確にはきっちりひとつひとつハンガーにかけられた─部屋の前に立ったクロエが眉を下げ、困った顔で言った
「マティアス。こんなに沢山服があっても、全部着せることはできないわよ」
つい先日見たときよりも、更に増えてる目の前の服、服、服。
マティアスはその言葉に思わず困惑した。
ついつい沢山のものを買いすぎてしまっていることは自覚していた。
しかし、かわいい我が子に似合う、かわいい服が世の中にはこんなにも溢れているのだ。
毎日違うものを着てもらいたい。いや、毎時間だって──
「───しかし、せっかく買ったんだし…」
クロエに指摘され少し後悔しながらも、やはり目の前のそれの全てが愛おしく感じられた。
マティアスがひとつ服を手に取り、あれこれと考え込んでいると、クロエが声をかけた。
「赤ちゃんはすぐに大きくなるのだから、必要最低限で大丈夫よ」
「いや、しかし…、この服はお茶会のときに合うし、こちらの服はピクニックのときに──」
マティアスは次々と服を手に取り、我が子への想像をクロエへと伝えた。
その落ち着き無きのなさ、続々と出てくる想像の豊かさ─もとい、言い訳─は、マティアスの普段の様子からとても考えられず、その姿を見て、クロエはクスリと笑った。
「マティアス。さっきも言ったけれど、そんなに沢山着せられないわよ。子どもはすぐにサイズが変わっちゃうし、その大きい服が着れるようになるのは何年後になるのかしらね」
クロエのその言葉に少し落ち着いたマティアスは、
「───しかし、やはりそれは不満だ…」
と小さく呟いた。
その言葉に、クロエは「もう…」と内心呆れながらも優しく微笑んだ。