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─結婚式SS─

皆様のご感想のおかけで、前後編で終わる筈だった物語が続き、SSではございますが、この結婚式のお話まで辿り着けました。

読んでくださった方、感想をくださった方、評価をしてくださった方、誤字脱字報告をしてくださった方、皆様ありがとうございます。


とある日。

クロエは父親と隣に並び立っていた。


「…不満はないのか?」

「ございません」

「本当に?」

「ええ」

「………」


頷き、そして首を振るクロエに、父親はそれ以上追求することはなかった。


「新婦クロエ様とお父様のご入場です。皆さま、盛大な拍手でお迎えください」


なんて言ったって、今日はクロエとマティアス。ふたりの晴れ舞台である、結婚式なのだから───。




「おめでとう!」「綺麗よ!」といった友人たちの声を浴びながら、クロエは父親と腕を組み、チャペルの入り口から祭壇に向かうバージンロードを歩く。


ドレスを踏んでしまわないよう、一歩一歩気をつけて足を進めながら、クロエは婚約が決まってからのこの約半年を思い返していた。


元は姉の婚約者であったマティアス。


数えるほどしか会ったことないその中で、目が合ったのは初対面のただ一度そのきりだった。

しかし、姉が置き手紙ひとつ残し屋敷を去って行ったことにより、クロエと婚約を結び直してからは、交流を深めるごとに、深く渋いその茶色の瞳とよく視線が絡むようになった。


口数の少ない人だと思った。

しかし、それは穏やかで思慮深いからなのだと気がついた。


表情の変わらない人だと思った。

しかし、よく観察するとふとしたときに綻ばせるその顔に気がついた。


小さな気遣い、優しさ、温かさが積み重なり、いつしか彼と過ごす時間はとても大切に思うようになった。


クロエと父親ふたりは、ピタと足を止める。

そして、クロエは祭壇の手前に立つ彼─マティアスを真っ直ぐと見つめた。


『…わたしは婚約者が、妻となる人間が、あなたでよかったと思ってる』


わたくしも、夫となる人間がマティアス様でよかったわ。


『君を大切にしたいと思っているんだ』


わたくしも、マティアス様を大切にしたい。


─わたくしは、この方と幸せになるんだわ。



父親からマティアスへ腕を組み直す。

そして、クロエとマティアスふたりは祭壇の前に向かい合って立った。


「誓いと共に、この指輪をあなたに贈ります」


マティアスはクロエの左手の下に手を添え、小さなダイヤモンドのシルバーリングをそっと薬指に通した。


クロエは自分の左手に輝く指輪に、内心ニヤニヤしながら、「ありがとうございます」と淑女らしい微笑みで返した。


「わたくしも、誓いと共に─」


クロエもマティアスの左手の下に手を添え、シンプルなシルバーリングを自分とは違う男らしい薬指に通した。


「ありがとう」とマティアスは微笑む。



続いて、ベールアップからの誓いのキスだ。


クロエはうまく表情を誤魔化していたが、心の中では淑女らしさの欠片もなく、床で足や腕をバタつかせ転がり回っていた。

それも仕方ない。はじめてなのだ。─キスが。


マティアスと婚約して半年、初心なクロエには手を繋ぐまでが精一杯であった。


震える足を叱咤しながら、クロエは膝を軽く曲げて中腰の姿勢となった。

一歩前へと出したマティアスの足が見える。


ベールに手がかかり、それに合わせて顔と視線を上と向けた。


視界を覆うものがなくなり、見えたマティアスの顔。

そして、顔左半分を覆う赤い痣のようなもの。


─ああ、すごく綺麗だわ。


クロエはそう思った。


「クロエ、わたしを受け入れてくれてありがとう」


マティアスは純白のドレスに身を包む世界一綺麗な花嫁を何よりも誰よりも愛しく思った。


「マティアス様、わたくしを望んでくださってありがとうございます」


重なるふたりの手と、手。


───そしてふたりは唇を交わし合わせた。




はじめてのキスにクロエより固まるマティアスが愛しくて、思わずクロエはその左頬にキスをした。

そしてすぐ我にかえり、恥ずかしさから固まるクロエとマティアスであった。


※本作品中の「わたくしを望んでくださってありがとうございます」という台詞ですが、最初は婚約する上で『ロワイエ家の娘』『マチルダの妹』であったクロエですが、マティアスと過ごす内に『クロエ』として迎え入れてくれるようになったと、感じたクロエだからこその言葉です。

(前後編と矛盾しないよう、補足しておきます)

(作中には書ききれてませんが、きっとマティアスもそういった言葉を伝えている筈…!)

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