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─姉の話①─

クロエとマチルダの家(ロワイエ家)は貧乏貴族の設定の為、豪華な食事→それなりの食事に修正しております。



「不満だわ!」


マチルダは叫んだ。


何故侯爵令嬢である自分が、使用人たちの仕事と同じことをしなくてはいけないのか。

何故あんなにも綺麗だった手を擦り切られせなくてはいけないのか。

何故こんなにも質素な生活をしなくてはいけないのか。


貧乏貴族な我が家とは言え、ロワイエ家にいたときは貴族らしい生活はできていた。


屋敷を出たときに持ち出したドレスやアクセサリーは全て売り捌き、家を借りる為の資金や生活用品を揃える為に使い、残ったお金で最初の内は使用人を雇い、それなりの食事もしていた。

しかし、持ち出したものは少なく、侯爵家と同じような生活など長く続ける事ができる筈もなく、すぐ底をついてしまった。


今はドレスなど着られず、素朴なワンピースばかり。

アクセサリーなど身につけられず、楽しみなお洒落は落ち着いた色味のシュシュひとつ。


使用人を雇うこともできなくなり、毎日慣れない炊事洗濯掃除というありとあらゆる家事に追われ、忙しい日々に限界がきてしまったのだ。


好きな人と愛し愛され幸せな生活を送る筈だった。

親に決められた、あんな化物みたいな顔をした人間と結婚などしたくなかった。


しかし、愛するエリク(庭師の男)はマチルダと共に屋敷を出てから、中々定職に就くことができなかった。

やっとのことで見つかった仕事だったが賃金が安く、マチルダは家事に加えて内職もしている。


どれもこれもマチルダが置き手紙ひとつでエリクと駆け落ちしたせいなのだが、当の本人は自分に原因があるなど一欠片も思うことがなかった。


「そうだわ!」


マチルダはひとついいことを思いついた。

実家へ帰り、援助をしてもらおう。


そうだわ。それがいいわ。

なんでもっと早くそのことに思い至らなかったのかしら。


自分の不甲斐なさにマチルダは唇を噛んだ。


素早くエプロンをはずすと、簡素な─金庫とも呼べない─箱から少ない硬貨を革袋に入れ、それを素朴な鞄にしまった。

善は急げ。そうと決まれば早速向かわなければ。




マチルダは人で混み合う乗り合い馬車に乗り、ロワイエ家(実家)の近くで降り、そこから歩いた。

ここ数ヶ月ですっかり履き慣れたブーツなので、足を痛めることもなかった。


「───着いたわ」


大きな屋敷を門の外から見上げる。

改めて見比べると、二人で今住んでいる家など、家と呼べない大きさだ。


この家こそ、やはり自分に相応しい。


中へ入ろうと、門へ手をかけたそのとき、「失礼」と使用人のひとりであろう男に声をかけられた。

「使者の方ですか?」「何かご用で?」と男は続ける。

ロワイエ家は侯爵家と言えど貧乏貴族であり、今まで常駐の門番などいなかったので、マチルダは驚いた。


この男はこの家の令嬢である自分を知らないのだ。


「わたくしを知らないの?マチルダ、と言えば分かるかしら?」

「マチルダ様─?」

「あなた、ここの娘のことも知らないなんて使用人失格ではなくて?」

「申し訳ございません。侯爵様に確認を取って参りますので、ここでお待ちいただけますか?」

「確認なんかいらないわよ!早く通してちょうだい!」


マチルダの頭にカッと血が上る。

わたくしを使用人と勘違いしただけではなく、名乗ってもわからないだなんて。そんなこと。


「申し訳ございません」


男は謝りながら、それでもマチルダを通すことはない。

二人一組で警護に当たっているのか、先程まで気づかなかったもう一人の男に男が声をかけようとしたそのとき。


「───マチルダ姉様?」


自分を呼ぶ聞き覚えのある女性の声に勢い良く振り返った。


クロエ()だ。


「クロエさ─「クロエ!ああ丁度よかったわ!」


男の声を遮り、マチルダは素早くクロエに駆け寄ると、その両手を包み込むように握り締めた。

今の自分とは違う、綺麗で手入れのされたその肌に少しの嫉妬を覚えたが、それを振り払い言葉を捲し立てる。


「あなたからも言ってちょうだい!この男がわたくしに失礼なことを言うの!」

「失礼なこと…?」


クロエが首を傾げた。


「そうよ!この男、わたくしのことを知らないと言うの!侯爵家であるこのわたくしを!」

「侯爵家…?」


クロエは更に首を傾げ、少し考え込んだ。

この姉は知らないのだ。あのことを。

まあ、それも仕方ないことか。とひとり納得をする。


「マノン、お茶の準備をお願いするわ。そしてあなた、お父様たちに伝えてくださる?マチルダ姉様が来たと」


「「はい!」」


クロエの指示にクロエの侍女であるマノンと門番の男は従い、素早く屋敷の玄関へと向かった。


「お姉様も入りましょ?」


その微笑みに、マチルダは何故だがよく分からないが言い知れぬ不満をその胸に募らせた。




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