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転生というか実は冥王の息子だったらしい  作者: オト乃クズ
冥王国編
2/2

2話 小さな冥王

 父親の言っていた自分の本来の体に戻ったタオハ。自分を迎えに来てくれたであろう目の前の青年が、とても嬉しそうに自分を見ている事に少し戸惑う。もう前世と言うべきなのか、以前の自分には経験のない事であるからだ。そして父親の言葉を思い出した。


 この人が言っていた俺の世話役…で合っているんだよな…?

  

「タオハ様。」

「タオハ様!?」

「はい。俺の主人であり、新たな冥王様ですから。」


 そう言えば冥王たらをやっているとかなんとか言ってたな…しかもその説明を全部投げ出してたな…。


 タオハは呆れつつも、仕方ない…と小さくため息をついた。一から教えてもらうしかないのだが、こうやって冥王様と呼ばれると不安でしかないタオハ。未だにこれが現実だというのも受け入れられて無い部分があるのだからそれも仕方ないと言える。すると、シリウスから小さな吐息が聞こえてきてタオハは不思議に思いシリウスの方に目線を向ける。


「………ハアッ…ハア…。」

「…?」


 シリウスさん…?何故に鼻息を荒くしているのでしょうか…?


「…っ嗚呼…タオハ様、本当にっ心から…心からお待ちしておりました…!!」

「へっ!?」


 興奮した顔に、犬耳と尻尾がボンっとシリウスに現れ目が点になるタオハ。尻尾をブンブンッと大きく振り、とてつもなく恍惚と嬉しそうにタオハを見上げているシリウス。一方タオハの方はというと、引いた顔と数歩下がって距離を取る。


 なっ…何だ…!?耳と尻尾も驚きだけど、何でこんな興奮して…!?


「あ、すみません…嬉しすぎてつい興奮してしまって。」


 耳と尻尾をしまい、恥ずかしそうな仕草をするが唖然とする表情が消えない。初対面でこれは中々インパクトが大きいものがある。


「タオハ様、お召し物をご用意していますので付いてきてください。」

「あ、はい…。」

「タオハ様、部下に敬語は駄目ですよ。」


 部下…か。前の人生では後輩と呼べる人達は割といたし仲良くしていたけど…いきなり部下と言うのもなぁ。


「…分かった。敬語は使わない。」

「はい。」


 たったこれだけで嬉しそうにするなんて…そんなに嬉しい事なのか?


 その後、タオハはシリウスに付いていくと広めの部屋に案内された。豪華な内装で、ベッドと丸机、柔らかそうなソファが置かれたシンプルな部屋だが、所々に置かれている植物や香りが心を落ち着かせる。


「ここは、先代様がタオハ様にお会いに来た時使用していた自室です。これからはタオハ様の部屋にするようにと言われています。ご自由にお使い下さい。」

「先代…あ、と、父さん…か…。」

「ふふ。まだ慣れないようですね。」


 何年か経ってもなれる気がしないなこれは。


「何か飲み物を持ってきます。ベッドの上にお召し物を用意していますのでお着替えになっていてください。」

「ああ、分かった。」


 そして手に取った服を見るが、どうやって着るのだろうか…と少し悩む。悩んだ末上下別れているのは分かったが、手触りのいいこの赤い布はどうしらいいのか分からず、前世のファンタジーゲームの記憶を捻り出し首に巻く事にした。のだが、明らかに長さが首に巻くようではないので顔が少し埋もれる形に。


 これ…絶対着方違う…。


「あ、タオハ様。それはこうするんです。」


 戻ってきたシリウスが丁寧に直してくれる。肩から体全体にゆったり巻いて、腰も数回巻き左右横に最後垂れ下げる感じが正解だったようだ。仕上がったのを見ると、意外に軽い服装で身動きも取りやすい。そしてタオハは、用意してくれた飲み物をソファに座りながら飲む。全身に暖かいのが染み渡る。

 一息落ち着いたその時、ふとシリウスの方を見ると、何かシリウスの全身を巡るような細い光る線が見えた。見間違いかと思い目を何度も瞬きさせるが変わらない。


「どうかされましたか?」

「いや…、なんかシリウスの体の中が透けて見えるというか…なんか光る線が見えてるんだけど、多分気のせいだから大丈夫だ。この世界に来たばかりだし慣れてないせいだと思う。」

「まさか、もう既に『魔眼』を開花させているとは…!流石ですタオハ様。」

「え、魔眼…?」

「魔眼のにもそれぞれ種類がありますが、タオハ様は相手の『魔力回路』を見通すようですね。」


 魔力回路?何だそりゃ。


「魔力回路というのは、魔法を使う為に必要な魔力が身体の中を巡る道…と言うべきですか。その魔力回路が正常に動いてないと魔力がちゃんと循環しなくて魔法が使えなくなるんです。(ゆえ)に弱点にもなるので、見られてはいけないものですね。」

「え、そうなのか…ごめん。」

「何を言いますかタオハ様!このシリウス、タオハ様に全てを曝け出す所存でございますのでいくらでも見てください!」

「お、おぉ…落ち着いてくれ?」

「はっ…すみません。」


 物凄い前のめりでまた興奮し出したシリウスに少し慣れてきたタオハは軽くあしらった。シリウスは元の位置に戻り姿勢を正す。


「それに魔力回路が見れる魔眼は聞いた事が無いので、とても貴重だと思いますよ。あと、それが見れる者は細かな魔力量だったり、魔力の種類、そして『刻印』までも見れるなど、古書で見た覚えがあります。それは、どうですか?」

「んー…。」


 じっとシリウスを見てみる。確かによく見ようとすると、灰色のような線と銀のような線の二つが流れているのが分かる。それとぼやけているが何かの紋章のような痕が心臓辺り見えた。


「灰色の線と…銀?あと、何かの紋章が見える。」

「恐らく灰色と銀は俺の魔力の種類です。俺は風と影の魔法を使うので。それと、その紋章というのが先程言った『刻印』だと思われます。」

「『刻印』?」

「刻印は我々の魂に刻まれた〝エナ"の根源で、破壊されれば死にますし、主人と決めた者に主従の魂盟を交わせば自分の魔法や特殊能力(アビリティ)を分け与える事も可能です。そして魂盟を捧げた者は、主人には逆らえません。」

「へぇ…。」


 ………ん?


「死ぬ!?」

「空気と一緒に『エナ』という魔力エネルギーが溢れてるんですが、我々は自然とそのエナを吸収して魔力に変換してます。エナの吸収の源がその『刻印』なので、破壊されるとエナを吸収できず、魔力を得られないので死んでしまうのです。」

「魔力が無いと死ぬからってことか…。」

「単純に言えばそうですね。まあ刻印は魂そのものであると考えてもらえれば良いですよ。」

「成る程、分かった。」


 つまり、全てはエナから始まり魔法へと繋がるという訳だな。と言うか、もっとはっきり刻印が見えてしまったらその破壊も可能…かもしれないという事なのでは…?


 憶測でしかないが、その考えがついた事に少し怖くなるタオハ。勿論出来たとしてもやりたいとは思わないが、今は深く考えないようにする事にした。それにしても覚えないといけない事が多いという事に頭を抱えそうになる。魔法とか特殊能力(アビリティ)の事とかも沢山あるのだろう。

 それにしてもこの魔力回路がずっと見えてしまうのはどうにかならないのだろうか…と悩む。目が疲れてしまう。どうしたら切れるのか。目に力を入れても、目を閉じても無理だ。


 ん―—―…魔眼オフ…魔眼オフ…魔眼オフ……。


 頭の中で魔眼の効果を切るイメージをしていると何かが収まっていくのが感じた。目を開けてみると視界は元通りに。


 えっ…こんなんでいいの!?


「戻った…。」

「慣れてしまえば簡単に切り替えができるようになりますよ。タオハ様でしたら一瞬です。」

「あはは、ありがとう…。」

「それと、タオハ様にはこれから冥王として上に立って頂きますが。」

「あー…うん。冥王ね…。」

「大丈夫です。先代様も特に何かをしていた訳ではありませんし。基本的にぐうたらしてました。」


 一応、王なんだよな…?あんな何でもできそうな顔しておいてぐうたらって…。


「タオハ様にしていただくのは冥界の管理です。」

「冥界?」

「はい。俺達は今冥界にいるのですが、ここは死者のみが暮らす世界。入れるのは冥王様か冥王様が許可した者のみです。そして―—―」


 シリウスが一通り説明を始めた。冥王とは冥界の管理者の事。その権限を所持しているのが冥王のみで、この冥界を維持しているのが冥王のみが使える空間魔法で出来ているらしいのだ。冥王が存在するだけでこの空間は保たれるという。

 冥王はこの世で唯一『生死魔法』というあらゆる生と死に干渉できる魔法を持ち、世界から恐れられている存在だという事。その気になれば一瞬で一国の民の魂全部を刈り取ることが出来るという。


「生死魔法…俺だけが使える魔法…。」

「代々冥王に受け継がれている魔法らしいです。あと他にしないといけない事は徐々にしていけばいいので、俺もお手伝いしますし。」


 そう言ってシリウスはニッコリ微笑んだ。この世界に来てしまったからには腹を括るしかない。いきなり一人でないだけ、シリウスが居てくれてるだけ心強い。タオハも眉を八の字にし小さく笑った。


「不甲斐ないだろうけど、よろしく頼むよ。シリウス。」


 タオハにそう言葉を掛けられ、歓喜で全身に震えが走る。そして、タオハを前に跪いた。


「シリウス…?」

「タオハ様。俺は今までも、これからも貴方だけに忠誠を誓う者。どうか、俺の主従の魂盟を受け取ってもらえませんか。」

「え、でもそれって結構深刻な事なんじゃ…。」

「タオハ様に忠誠を誓い300年経ちました。」

「300年!?」

「タオハ様が居た世界とは時の流れが違うので。実はタオハ様がお生まれになって300年経ちます。」


 はぁ…異世界だなぁ…。


 その年数を聞いて驚愕を隠せない。‷今までも‴と言っていたけどもしかして300年もずっと待っていたんだと言うのならこれを断るのは出来ないだろう。


「…俺でいいのなら喜んで受け取るよ。」

「俺の心は既に決まっていますので。」


 すると、シリウスの刻印の形がシリウスの足元に現れ灰色と銀の光に輝く。タオハが手を翳すと、タオハの手の甲に自身の刻印が現れそれが頭上に展開された。黄金に輝く大きな刻印。それにシリウスは小さく息を呑んだ。なんて綺麗なんだ、と。そして頭を垂れた。


「主従の魂盟を捧げます。」

「承諾する。」


 タオハの刻印から、そしてシリウスの刻印からそれぞれから鎖が伸びお互いの刻印を繋いだ。タオハとシリウスはお互いの繋がりをしっかりと感じ、力が増加するのも感じ、主従の魂盟の意味を知った瞬間だった。これは確かに魂での結びつきだ。だからこそ、誰とでも結んではいけないという事も。

 終わると、シリウスの魔力の一部を感じる。それが自分の魔力と馴染んでいくのも。とても不思議な感覚である。


 こうして、タオハは新たに小さな冥王としての一歩を踏み出したのだった。


2話 終


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