序章~伝承~
~地球 歴 7世紀初頭 南極大陸近海~
「酷い嵐だ。長らく島々を航海してきたがこんなのは見たことがねえなあ。」
誰かが嘆く。
きっと乗り組み員の一人だろう。
ピシャッ
船体に雨が降り、雷の灯で船体に乗っている人影が映る。
我々はフイ・テ・ランギオラ(Hui Te Rangiora)の乗り組み員。10名ほどの人数だ。
テ・イビ・オ・アテア(Te Ivi O Atea)号という船で「約束の地」を目指している。
必死に船体に捕まりながら、『ラトゥ』は祖父の遺言を思い出す。
「俺達の先祖はな『謎の大陸』を発見した。そこは神が作り出した世界だったという。・・・俺も探したんだがな・・・。発見できなかったよ・・でも『ラトゥ』、おまえなら発見できるかもしれねえ。いつかおまえが発見するんだぜ?・・・そばで見てるからよ・・・」
そういうと祖父は息を引き取った。
祖父の、そのまた祖父が言っていた『謎の大陸』
はるか昔の伝承。
私の祖先は幼い頃「謎の大陸」を見つけたという
その伝承は不思議な物語として
親から子へ語り継がれてきた。
・・・埃と次の世代への礎として。
その「謎の大陸」がある場所は
この世とも思えない暗闇と神の雷が降る海だったという。
空からは凍てつく雨と光が常時降り注ぎ。
視界はほぼゼロ。
祖先の一人が漁にでたが嵐に遭い、
船も浸水しボロボロになり方角もわからず、意識も消えかけ、もうダメダと思った時。
その島は霧と雲の合間から一瞬見えたという。
見たことのない島だった。
『そこは草木の生えていない島で氷山のような山々が空を貫いていた。』
祖先は疲れ果てて動けなかったという。
なのに・・・船は舵を取っていないにも関わらず勝手に島に向かって進んでいった。
まるで神の導きのように
その島に近づくにつれて嵐と視界が良くなり
一本の光の柱のように、島と船までの道のりを明るく照らし上げる。
光の道の外は未だに嵐だ。
そしてそのまま船は島に到達するのか・・・と思った瞬間
気がつけば嵐は消え去り。
いつもの見慣れた海を漂っていたという。
夢か?と思ったが、船の損傷や体の切り傷が実際にあそこは存在したということを物語っていた。
祖父はその出来事を皆に話したが
まったく相手にされなかった。
年寄りが居眠りでもしていたのだろうと。
そんなものは存在しないと。
そのまま祖父は静かに息を引き取ったが。
代々我が家の伝説の地として物語りをつないで来た。
子供の頃の私は祖父から聞くこの話が好きだった。
そしてどうしても嘘だとは思えなかった。
当時探検したという船は家の中にあるし
家の着物の刺繍などには祖父の冒険単として流れるような船と海と大陸の模様が刻まれている。
そして私がいつか大きくなったら先祖の発見できなかった島を発見すると心に決めていた。
~数十年後~