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エピローグ③


 間もなくして、馬車が王宮に到着した。シリウスに導かれるまま、煌びやかな王宮の大広間へと進んでいく。足を踏み入れた途端、割れんばかりの拍手喝采に迎えられた。


 まさに、国を挙げての祝賀祭だ。魔王討伐後、無事にご回復されたアストレイア王国陛下ご夫妻、ありとあらゆる王侯貴族たち、各国から招かれた大勢の国賓たちから、惜しみない祝福と賞賛の言葉を贈られて、緊張と喜びで胸がいっぱいになる。


 今日は、祝いの日だ。この王宮だけでなく、国という国、街という街、村という村で、世界を救った英雄たちへの感謝の祭りが行われている。


 シリウスと二人、国王陛下への謁見と一通りの挨拶を終えたところで、今日の主役である英雄たちの元へ向かった。楽しげに談笑していたセオドールとアルベルトが、いち早く気づいて笑顔を向ける。

 

「……マリンローズ先生! そのドレス、とても綺麗だね!」


「元気そうで何よりだ、子ウサギちゃん」


「あ、ありがとう……二人とも、長い間、心配をかけてしまってごめんなさいね」


 優しく微笑む二人に、ついさっきの夢の内容を思い出してしまう。まったく、可愛い生徒たち相手になんて夢を見てしまったのだ。


 これでは教師失格だと背徳心に身悶えしていたら、プリシラがこてんと小首を傾げた。


「マリンローズ先生? なんだか、お顔がお赤いような気がいたしますわ」


「まだ熱があるのではなくって? お兄様ったら、先生のドレス姿を見せびらかしたくて、ご無理を仰ったのではないでしょうね」


「おやおや、シルヴィア。この僕が愛しいローズに無理を強いるわけがないだろう?」


「な、なんでもないのよ! ーーあれ? そう言えば、アンジェリカとレオンハルトの姿がないみたいだけど、どこにいるの?」


「師匠ーーっ!!」


 探すまでもなく、美しいドレス姿のアンジェリカと、夫のフェリクス、そして、なぜか双子の赤ん坊たちを両手に抱えたレオンハルトが揃ってやって来た。双子は最推しであるレオンハルトに抱かれて、恍惚とした表情だ。


 かつての教え子の生まれ変わりである彼女たちは、魔王討伐のその後、もとの赤ん坊の姿に戻り、言葉も話せなくなってしまった。聖獣の加護を授かり、魔法を使えるようになったら、念話の魔法を教えてあげようと思っている。


「アンジェリカ! とても素敵なドレスねーー、……って、これ、よく見たらプリプリのエンディングロールでヒロインが着ていたドレスじゃないのっ!!」


「さっすがは師匠! 御慧眼、恐れ入ります! 今日のパーティーのために、シルヴィア様が仕立ててくださったんですよ!」


「アンジェリカがどうしてもこのデザインがいいというので、腕を奮いましたのよ。華やかで美しく、祝いの場に相応しいドレスですわ。お揃いで、双子たちと旦那様の装いも仕立てましたの」


「フレースヴェルグ嬢直々に仕立てていただけるなんて、恐縮です。それに、殿下も申し訳ございません。娘たちが一向に離れなくて……私が抱こうとすると号泣しますし」


「構いませんよ。将来の勉強にもなりますから。ーーねぇ、シルヴィア?」


「はあっ!? な、なにを仰っておられるのか、さっぱりわかりませんわ!!」


 意味深に微笑みかける腹黒王子に、シルヴィアは真っ赤になる。


 仲睦まじい二人の様子に安心しながら、ふと気になったことを尋ねてみた。


「そうだ、アンジェリカ。国王陛下が、魔法省に聖女の地位を新たに設けると仰ってくださったのよね? これからは聖女として、宮仕えすることになるの?」


「いいえ! たった今、レオンハルト様にお口添えいただいて、それはもう丁重にお断り申し上げてきましたよ! 宮仕えなんて性に合いませんし、それよりも、今、うちのお店は〝伝説の聖女が作るありがたいスィーツカフェ〟としてバズってるんです!! シリウスロッド様が援助してくださったおかげで故郷の果樹園も順調に復興していますし、これからどんどん支店を増やして、わたしのスィーツで世界中の人々を幸せにするんですっ!!」


「聖女らしいーーいえ、アンジェリカらしい素敵な野望ね! なら、師匠として私も協力するわ!」


「僕としても、せめてもの罪滅ぼしができて嬉しいよ。君の義兄上には本当に迷惑をかけてしまったからね。支店の話も、ぜひ助力させてくれ。アンジェリカの作るスィーツは、僕とローズの毎日の楽しみだからね」


 穏やかに微笑むシリウスに、だが、レオンハルトだけが物言いたげな視線を向けていた。彼はすぐにそれに気がつき、怪訝に首を傾げる。


「いかがされましたか、殿下?」


「畏まった呼び方はおやめください。兄上こそ、断られてしまってよろしかったのですか? 父上も母上も、兄上の正式なご身分を公に明かしたいと、心から望んでおります。私も、同じ気持ちでおりますのに……」


「そのお気持ちだけで、充分すぎるほどですよ。私は王位に興味はありませんし、政界に余計な波風を立てて、愛する人の大切な生徒を危険に晒したくもない。ーーそれに、やはり、私にとっての両親は、フレースヴェルグ公爵夫妻なのです。彼等は己の命を失うと知りながらも、あんなにも深い愛情を注いでくれた。私は、公爵家の当主として、二人に報いたいのです」


(シリウスは身分の公表どころか、諸悪の根源である自分に英雄と讃えられる資格はないと、褒賞の辞退まで申し入れていたのよね……でも、国王ご夫妻は断固として聞き入れなかった。本当に、万事に抜け目がないように見えて、変なところで頑固なんだから)


 しかし、そういう不器用なところも好きなのだ。


 内心でデレデレと惚気ていたら、ふいに、シリウスは悪戯っぽい笑みを口端に乗せた。


「本当は、王位継承権どころか宮廷魔法士長の地位も返上して、ローズと二人で新婚生活を楽しみたいと思っていたのだがね?」


「はいいっ!? い、いきなりなにを馬鹿なことを言い出すんですか!?」


「魔王が消滅してしまったせいで、今の僕は聖獣の加護を失っているからね。魔法の使えない宮廷魔法士長など、ただのお荷物にしかならないだろう?」


「そんなことはありませんっ!! シリウスほどの魔法士です、新たな加護を授ける聖獣はすぐに現れます! それに、私が宮廷魔法士長の地位を譲っていいのは貴方だけなんですから! 引退なんて許しませんよ!!」


 怒鳴るかたわら、先ほどの彼の言葉が嬉しいとも感じてしまっている。


 成海しずくとマリンローズが、同じ気持ちを抱いているのだ。


 どちらともが消えることなく、自分の中で生きている。


 それが私なのだと、今は、そんな風に自覚している。


「あははっ! 僕だけか。ーーそれは光栄だね」


「そうですよ! 第一、私は生涯現役で教職をまっとうするんですから……、んうっ!?」


 くい、となめらかな指先に顎を持ちあげられる。ゆっくりと近づいてくる唇に、カァッと頬が熱を持った。


 恥ずかしさのあまり、思わずギュッとつぶった瞼の向こうで、生徒たちの歓声が響いていた。


 ーーこの冬が明ければ、じきに春が来る。


 みんなで迎える卒業式はとても待ち遠しいけれど、今はまだ、もう少しだけ。


 この賑やかな学園生活を楽しんでいたい。




《完》

愛する読者様へ



 22万字もの長編を読み抜き、ここまでお付き合いいただいて本当にありがとうございました。


 子育てしながらの執筆という二足草鞋の日々の中、創作活動を楽しみ続けることができたのは、読んでくださる皆様のおかげです。


 いつも、たくさんの活力をいただいております。

 本当にありがとうございます。


 面白かった! と思ってくださった方は、ぜひこのページ下にある『ブックマーク』と『★★★★★』にしていただけると大変励みになります。


 また一言でも感想をいただけますと泣いて喜びますので、ぜひともお願いいたします。


 これからも、どうかたくさんの皆様に作品を楽しんでいただけますように。



追記: 完結後、たくさんの方に読んでいただき、ありがとうございます! 後日、マリンローズとシリウスロッドの後日談(甘め)を追加更新させていただきたいと考えております。

 また読みに来ていただけると嬉しいです!



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