表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/98

十章④


「あー、側にいて嬉しいのはシルヴィアだけか?」


『……ごめんね。ちゃんと通してもらったんだけど、聞こえなかったみたい』


「ア、アルベルト様、セオドール様っ!?」


 弾かれたように二人は離れ、振り向いた先には苦笑するアルベルトと、恥ずかしそうに頬を赤らめるセオドールが並んでいた。


「も、勿論! 心強い友人たちが側にいてくれることも、大変喜ばしく思っておりますとも!! ーーそ、それで、お二人が来てくださったということは、事件に進展があったのですか?」


 過去に例がないほどに狼狽するレオンハルトに、アルベルトは喉の奥でクックッと笑う。


「いや。俺もセオドールも、アストレイア国王陛下に書状を頂いたんだ。話したいことがあるから、お前と一緒に来て欲しいってな」


「父上が……? おかしいですね、私のところにはなにもーー」


「レオンハルト様、こちらではありませんの?」


 ス、とシルヴィアが差し出したのは、山積みの書類の間に挟まっていた封書である。レオンハルトは学園の寮や公務であちこちを飛び回っているため、書状(この方法)が選ばれたのだろう。


 国王専用の封筒、しかも金の王印付きの代物を見落としていた。血の気を引かせるレオンハルトに、シルヴィアは細い肩をすくめた。


「あ……っ!? う、嘘だ……私が、こんな失態を……っ!?」


「まったく! しっかりと食事を取らないから、こんなありえないミスをするのですわ!」


「なんだ、シルヴィア。また食べてもらえなかったのか?」


『……レオンハルト。シルヴィアが君のために頑張って作ってくれているんだから、ちゃんと食べてあげなよ』


「作って……? まさか! 今まで差し入れてくれていた食事は、シルヴィアの手作りだったのですか!? どうして言ってくれなかったのです!」


「そ、そんなの、誰が作ったものでも同じでございますわよ!」


「貴女が作ったものなら残さず食べましたよ!! ああ、勿体ない! 今までの分は、まさか、捨てて……!?」


「いや。毎回、また食べてもらえなかったとアンジェリカに泣きつきに行くから、皆で食べさせてもらってた」


『……とっても、美味しかったよね』


「シルヴィア……!! この食事は必ず食べますから、絶対に下げないでくださいね!?」


「わ、わかりましたわよ!! とにかく、今は国王陛下にお会いになるべきですわ。きっと、大切なお話に違いありません」


「そうですね。ーーでは、貴女も一緒に。父には許しをいただきます」


「……っ!」


 差し出された手のひらに、シルヴィアはおずおずと手を伸ばす。レオンハルトはその躊躇いごと包み込むように、握る手に力を込めた。


 



            ***




 

「父上、参りました」


 本宮の最奥にあたる王の寝室周辺は、徹底した人払いがされていた。


 それだけ、国王が伝えようとしている話の重要性が伺える。どんな内容であれ、受け入れる覚悟のもとに寝室へと足を踏み入れたレオンハルトたちだが、病床に伏せる王の側に、王妃が座していることに驚いた。


 アストレイア王国王妃ソフィアナ・アストレイア。


 昔から後宮に引きこもりがちな彼女は、息子であるレオンハルトの前にさえ滅多に姿を表さない。だが、会って話せば確かな愛情を感じるので、嫌われているわけではないと自覚していた。


「母上……」


 レオンハルトの声に反応し、王妃は俯いていた顔をあげる。


 肌は蒼白く、こけるほどに痩せた頬が痛々しい。


 最後に会ったのは数ヶ月前だが、さらにやつれた印象だ。王の病を憂いて食が細くなっているとは聞いていたが、これではどちらが病人かわからない。


 一体なにがあったのかと尋ねる前に、王妃は立ち上がり、レオンハルトに駆け寄った。碧い瞳から透明な雫が滴り落ちる。


 ごめんなさい、と振り絞られた言葉は嗚咽に埋もれた。


「ごめんなさい……ごめんなさい……!! ーーすべては、わたくしの責任なのです……! あの子を追い詰めてしまったのは、わたくしの愚かな行いが招いたこと……!! 真実を明かせば、どれほどあの子が苦しむか、わかっていたのに……!!」


「母上! どうか、落ち着いてください……! ーー父上! これは、どういうことです!?」


 泣き崩れる王妃をシルヴィアにまかせ、レオンハルトは寝台の国王に詰め寄る。一国の王妃がここまで取り乱すほどのなにかが起きたのだ。


 レオンハルトだけでなく、友好国の二人もの王子を巻き込まなければならないなにかが。


 おそらく、それにはマリンローズとフレースヴェルグ公爵の失踪が関係しているーーこの場に呼ばれた誰もがそう確信していた。


 アストレイア王国現国王リーンハルト・ジーク・アストレイアは、自ら起き上がることもできない身体を横たえたまま、しかし、目にだけは強い光をたたえて、レオンハルトを見つめた。


「……お前を呼んだのは、わたしの命が尽きる前に、伝えておかなければならないことがあったからだ。……これは、我が王家最大の禁忌と心得なさい」


「禁忌……?」


 国王は、レオンハルトによく似た相貌を僅かにうなずかせた。


「今から、約三十年前……〝いにしえの秘境〟の奥に現存する魔王の封印石にひびが生じ始めた……あの石は、数千年前、伝説の聖女によって施された封印魔法の結晶体だ。石が砕け、封印が消失すれば、この世に再び〝魔王〟が復活してしまう……。当時の宮廷魔法士長メルリーヌ導師は、〝魔王〟を再度封印する方法を探し求めた。しかし、今の世に、魔王の封印の力を強める神聖魔法の使い手ーー聖女は存在しない……。そこで、彼は自らに残された寿命の多くを犠牲に、禁忌の魔法を完成させたのだ。それは、人間の魂に魔王の半身を封じるという禁術だった」



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 溺愛???と思ってたら、ラスボス臭がどんどん強くなるばかりの兄。 いやヤンデレと溺愛は似て非なるものですからね! 悪の種を芽吹かせた?主人公が悪いとも言える気がしますけど。 あと先生…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ