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九章③




             ***




「シルヴィアさん……っっ! すごいわ! まるでファッションショーみたいだったわ!!」


 祝杯を掲げるとともにパーティーが始まり、会場はシルヴィアのデザインしたドレスを賞賛する話題で持ちきりだった。


 未だ興奮の冷めやらぬ私は、シルヴィアの両手をガッシリと握りしめる。極度の緊張と、喝采を浴びたときのとんでもない爽快感に、まだ身体が震えている。パリコレのランウェイを歩いたことはないが、きっとあんな感じに違いない。


「ふぁっしょんしょー? よくわかりませんが、このわたくしがデザインしたのですから、成功して当然ですわよ!!」


 パッと扇子を開き、シルヴィアは完璧な煽り角度で高笑いを決めた。今宵の彼女のヘアスタイルは、アストレイア王国の伝統的な淑女の髪型、縦ロールだ。


 絶対に絶対に似合うからと頼み込んだ結果、なんと採用してくれたのである。

 

 やはり、シルヴィアといえば縦ロールだ。クルクルと綺麗に巻かれた銀紫の髪がお人形のようで可愛らしいと見つめていたら、彼女はピタリと笑うのをやめ、ちょっと恥ずかしそうに、それでいて、とても誇らしげに私を見つめた。


「素直に認めるのは悔しいですけれど、貴女のおかげですわ。あのとき、ベスティアのドレスの真似をしては駄目だと言ってくださらなければ、こんなに素晴らしいドレスは生み出せませんでしたわ。革新的であれ、伝統的であれ、原点となる自分自身を見失ってはいけないのですわね。ーー感謝しておりますわよ。マリンローズ先生!」


「ーーっ!」


 シルヴィアの笑顔とともにパラメータが現れ、金色の光を放つ。



 シルヴィア・フレースヴェルグ

【好感度】 100

学力 20→100

魔力 20→80

強さ 20→50

リッチ度 200

流行 180→200

可愛さ 100→120



(やったああああーーっっ!! シルヴィアの断罪エンドを回避したわ!! しかも、初期値が酷かった分、パラメータ値の伸びが凄い! 《流行》はついにカンスト! アルベルトくんと戦ったからか、《魔力》と《強さ》も大幅アップ! 《学力》もあがってるわ。〝夏休みの宿題〟をしっかりやっている証拠ね! ーーさて。これで、ベスティアに渦巻く経済戦争の陰謀の芽は摘み取れたはず。最後はいよいよ、レオンハルトの攻略ね!!)


「さあ、シルヴィア嬢。そろそろ私たちも挨拶に行きましょう」


「わかりましたわ。ーーでは、マリンローズ先生。パーティーを楽しんでくださいませ。くれぐれも、お兄様に恥をかかせないように!」


 一言多いシルヴィアに苦笑しながらも、彼女をエスコートするレオンハルトの眼差しに冷淡さはない。二人の不仲は解決できたと思うが、しかし、レオンハルトのハードモード攻略の鍵になるのはシルヴィアではなく〝王国の病〟だ。


 それを治す手立てはわかっているが、シリウス兄様に頼まれた秘薬の材料のうち、〝神竜の宝玉〟だけがまだ見つかっていない。


(あれについては、明確な手がかりもないのよね。どうしたものかしら……)


 うーん、とパーティーそっちのけで悩んでいると、高い位置から視線を感じた。見上げると、黒に近い濃紺の軍服に銀青色の色羽織を羽織ったシリウス兄様が、麗しく微笑んでいる。


「す、すみませんっ! せっかくのパーティーなのに、考え事をしてしまって……」


「謝ることはない。可愛らしく微笑んだかと思えば、急に困り顔になったり、見ていて飽きないよ。ーー絹と宝石で美しく着飾った君も、とても素敵だね。どこかに閉じ込めて、僕だけのものにしてしまいたいくらいだ」


「シリウス様!?」


 そっと頬に触れる指。内緒話でもするように囁かれる声が、身体の奥まで深く響いて。


(うひゃあああああっ!? ほ、ほっぺた、ささ触られ……っ!? みみみ耳に息があああーーっ!! 近いっっ! 正式に婚約を結んでからというもの、シリウス兄様のスキンシップがどんどん過剰になってるんですけどっ!?)


 このままでは口から心臓が飛び出してしまう。慌てて距離を取ると、兄様はおかしそうにクスクス笑った。


「ふふっ、冗談だよ。ところで、なにを悩んでいたんだい?」


「えっと……例の、秘薬の材料の件、〝神竜の宝玉〟がどうしても見つからないんです。セオドールくんにも、聞いたことがないと言われてしまって」


「ーーふむ。ならば、竜王陛下のお知恵をお借りするのはどうだろう。僕も禁書庫の文献を探ってみたのだが、手がかりを得られず困っていたのだよ」


「竜王陛下に?」


 竜王陛下御夫妻には、公国に着いた時にご挨拶させていただいた。お二人の印象は〝とにかく若い〟の一言に尽きる。竜王陛下はセオドールが成長期で大人になったときの姿にそっくりだし、王妃様にいたっては、どう見ても十代の少女だ。むろん、竜人族なので、外見よりもずーーっと長生きしておられる。確かに、宝玉について知っておられる可能性は高い。


 ならば早速と、私はシリウス兄様にエスコートされ竜王陛下の前に進み出た。


 ちょうど、彼と話をしていたアンジェリカとセオドールが、私たちに気づくなり喜びと不安の両極端な顔を向けた。


『……先生! 凄いことがわかったんだよ!』


「師匠おお〜っ! 竜王陛下に赤ちゃんの魔素源を調べていただいたら、二つあるって……! どうしましょう、双子みたいなんです!!」


「すごいじゃない!! なら、出産までに、気力と体力の強化魔法を鍛錬しましょう。貴女なら絶対に大丈夫よ!」


 ありがとうございます〜っ!! と、涙目ですがりつくアンジェリカ。


 美しい翠緑の流水紋が描かれた絹衣を揺らし、竜王陛下が静かに私を見下ろした。


 セオドールによく似た、竜人族特有の紅玉石の瞳が柔らかに細まる。


『メルリーヌ導師。貴女は魔法士としてだけでなく、素晴らしい指導者でもあられるのですね。息子の危機を救って下さったばかりか、こんなにも多くの友人たちに出会わせていただいたこと。心から、感謝を申し上げる』


 両の手のひらを合わせ、竜王陛下は私に向かって深々と頭を下げた。その場にいたドラゴニアの貴人たちにもいっせいに平伏され、最上の礼を示された私はあたふたと狼狽する。


「あ、頭をお上げください!! 教師として当然のことですわ! それに、私は指導しただけで、頑張ったのは弟子や生徒たちなのですから!」


『謙虚さは我が国最大の美徳です。貴女は、人としても優れておられるようだ。是非、なにか御礼をさせていただけないだろうか? わたしにできることであれば、可能な限り叶えさせていただきたい』


「御礼……ですか」


 チラリと隣のシリウス兄様を見上げると、彼は小さく頷いた。



 

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