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八章③


(やったわ……! バッドエンドを回避すると、【好感度】が100になるのね。授業にも出てくれるようになったから、《学力》もあがってる。プリシラ姫のパラメータも素晴らしいわ)


 あの日以来、プリシラは耳や尻尾を隠すのをやめた。自身を加護する聖獣を誇ることで《魔力》が、友達と『お茶会』を開いたおかげで《流行》が大きく向上している。


 『お茶会』では、最新のドレスを着て参加するほど《流行》があがる。シルヴィアにデザインしてもらったドレスを着たことが吉と出たのだ。


 「招待状は、ここにいる全員に出させてもらった」とアルベルト。


「レオンハルト、シルヴィア嬢。二人も是非、来てくれ。特に、シルヴィア嬢には無礼な疑いをかけたことを詫びたい」


「勿論です。喜んで参加させていただきますよ」


「フン! どんなに詫びていただいても、疑ったことは変わらないのですから、結構ですわ!」


「そうか……やっぱり、許してはもらえないか」


 嘆息まじりに呟くアルベルトに、レオンハルトがくすりと苦笑した。


「アルベルト。彼女は、〝もう気にしていないから、謝らなくていい〟と言っているのですよ?」


「そうなのか!?」


「そう言っているではありませんの。ベオウルフ公国主催のサマーパーティー、招待客にはベスティア獣王国をはじめ、多くの諸外国の王侯貴族たちも招かれるはず。ーー腕が鳴りますわ!!」


 令嬢にあるまじく拳を握りしめ、武者振るいするシルヴィアにギクリとする。


(まずい……! きっと、このままシルヴィアを突っ走らせたら、ベスティア獣王国風の最先端のファッションでパーティーに現れてしまうのよ! どうにかして止めないと!!)


「シルヴィアさん! 張り切るのはいいけれど、ベスティア獣王国で流行っている髪型やドレスを真似するのは、絶対に駄目よ!!」


「な、何故わかりましたの……!?」


 絶句するシルヴィアに、まさか、とレオンハルトが蒼白になって席を立つ。


「シルヴィア嬢! 本当にそのようなことを考えていたのですか!? 和平協定を結んだとはいえ、ベスティア獣王国との紛争の傷は根深い。私の婚約者たる貴女がベスティアのドレスを纏えば、どのような政治的宣伝プロパガンダかと混乱を招くのがわからないのですか!?」


「わ、わからないわけではありませんわ! ただ、我がアストレイア王国の方が優れていることを示すためにも、ベスティア獣王国を超えるような装いで挑まなければと思いましたの!」


「軽率すぎます! アストレイアとベスティアが手を組み、ベオウルフ公国へ宣戦布告したとみなされる可能性もあるのですよ!?」


「それこそ、大袈裟すぎますわ! 公国の建国を祝う場は、和平協定の締結を祝う場。そのような意図にとられるわけがないではありませんの!」


 負けじとシルヴィアも席を立ち、レオンハルトと真っ向から睨み合う。


 互いの間に火花が散るようなぶつかり合いに、非常に嫌な予感に襲われた。


(も、もしかして、今の発言はまずかったかしら……サマーパーティーで起きるはずの大喧嘩を早めただけだったりして……?)


「ふ、二人とも落ち着いて!! 『ーー理由が知りたいわ! シルヴィアさんのドレスはどれも独創的で素晴らしいものばかりよ。なのに、どうしてベスティア獣王国の真似をしようとするの!?』」


「……っ!」


(今のは……マリンローズ?)


 ーー彼女の言う通りだ。


 考えてみれば、おかしい。


 今までシルヴィアが作ってくれたのは、〝私のためだけのドレス〟だった。


 プリシラのために仕立てたドレスも、彼女が外見で悩まなくてもいいように、耳や尻尾が悪目立ちしないよう配慮し尽くされたデザインだ。


(なのに……いくら流行しているからといって、レオンハルトに反対されてまで他国の真似をしようとするのは、やっぱりおかしいわよね?)


 不器用なシルヴィアの、本当の気持ちが知りたい。


 しかし、今の私のパラメータの《流行》は、たったの20だ。


 【好感度】も、シルヴィアの心を開くには到底足りない。


 ーーでも、ここで引いたら教師ではない!!


「教えて、シルヴィアさん……!! 貴女がドレスを作るのは、亡くなったお母様のデザインを残すためなのだと、シリウス様から聞いたのよ! ただの意地ではないはずよ。レオンハルトくんに反対されても、貫かなければならない理由があるんでしょう!?」


「お、お兄様が、そんなことまで……?」


 シルヴィアの瞳が驚愕に戦慄いた。


 テーブルを囲む皆も、ハッとした顔で彼女を見つめる。シルヴィアが沈黙するままに時間だけが流れたが、レオンハルトがそれを打ち破った。


「シルヴィア嬢。きつい言い方をして、すみませんでした。ーー私は、これまでずっと貴女のことを誤解していた。国の現状も考えず、尽きぬ欲に溺れる愚かな令嬢だと思っていました。ですが、それは間違いだとメルリーヌ女史が教えてくださった。私は貴女の婚約者です。貴女を支え、その心の拠り所になるためにも、もっと、貴女のことが知りたい」


「……!? ーーっ、ああもう!! わかりましたわよ!!」


 シルヴィアは平静さを取り戻すように、冴えた色味のドレスの裾を払うと、ことさら優雅な仕草で席についた。



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