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一章⑤


 胸に浮かぶ感情のままに、言葉を紡ぐ。そうしているうちに、マリンローズという人物について、ゲームでは描かれなかった部分を理解していった。


 国家有数の優秀な魔法士である彼女だが、〝女性〟としての評価は低い。この世界の貴族令嬢は、十八歳前後、遅くても二十歳までに結婚するのが普通だ。貴族には魔法士の才があるのが当然で、学園への入学が義務付けられている。既婚者は就学権を失うという法律さえなければ、結婚適齢期はもっと早まるのだろう。


 マリンローズは現在二十四才。この世界ではき遅れだ。女性は跡継ぎを産ませてなんぼの貴族社会では、いくら本人が優秀でも、彼女の価値はないに等しい。


 その現実が、歳を追うごとにマリンローズを卑屈にさせている。


(いやー、乙女ゲームの設定がリアルになるとシビアだわ! 前世の日本の基準なら、二十四才なんて女盛りなのに。魔法士学園の教職に就いて、そこらの上流貴族たちなんて足元にも及ばない額をガンガン稼いできたんでしょう? マリンローズはもっと自分に自信を持つべきだわ。前世の私なんて、三十五才で独り身でも幸せだったんだから、大丈夫よ)


 もっとも成海しずく的には、生徒たちより大切に思え、二次元の男性よりも素敵な男性としか結婚しないという信念のもとに相手を探していたら、見つからなかっただけだ。後悔はしていない。結婚する以外にも、充実した人生を送る方法はある。


 「本当の娘か……」と、シリウスロッドはふいに笑顔を消した。馬車の窓から差す明かりに照らされて、モノクル越しの彼の瞳が、冴えた月のように底光りしている。


「君のために言うが、彼等も財産目当てだったのかもしれないよ? 領地が経営難ならなおのこと疑うべきだ。人の愛情には、どんな形であれ理由がある」


「私の気が済むようにしただけの話です。失ったお金は稼げばいいですし、学園には華美に着飾っても行けません。ただ貯めておくだけのお金なら、民達の幸福のために使ったほうが良いというのは、本心です」


「本当に、君は貴族の鑑のような女性だね。ーーでは、次は僕と婚約してくれないか?」


「……はい?」


 ダンスに誘うような気軽さで言われ、思わず訝しげに見つめてしまう。彼は、もちろん騙すつもりはないよと微笑んだ。


「未婚の公爵とはよほど魅力的なものらしい。見合い話を断り続けるのも、うんざりしてしまってね。君も、財産目当てに騙されなくて済むし、悪い話ではないだろう」


「つまり、お互いを虫除けに利用しようというお話ですか……?」


(……どうしよう?)


①【はっきり断る】


②【お受けする】


 そんな選択肢が頭に浮かんだ。これがゲームのプリプリなら、画面には選択肢が表示され、一旦セーブするのがお約束だ。


 好印象でもがっかりでも、推しプリの反応はすべてが尊い。かつての私は選択肢の数だけリロードを繰り返し、それらを余す事なく堪能してきた。


 しかし、これが現実である今、チャンスは一度きりしかない。


(一度しかないなら、いい反応が見たいわ! からかい癖のある年上属性男子、しかも先輩タイプなら、つきあいが長い分、こちらの答えは読まれているはず。マリンローズ的には断りたい気持ちでいっぱいだから、はっきり断っても「ふふっ、冗談だよ」で流されてしまうだけ。相手の意表を突くためにも、ここは、②を選択すべき!!)


 ていっ! とばかりに、私は心の選択ボタンを強く押した。


「そういうことなら、構いませんよ」


「え……っ?」


 瞬間、シリウスロッドのアイスブルーの瞳が、こぼれ落ちそうなほどに見開いた。余裕たっぷりに浮かべていた微笑みは粉砕され、無防備な驚愕をさらしてしまう。


 そんな彼に、私は「キターーーーーーッッ!!」と脳内で悦びに打ち震え雄叫びをあげながら、心のスクリーンショットボタンを連打した。


「驚いたな……そうか、君にはそのつもりがあるのか」


 だが、彼は深刻そうに呟き、手で口元を覆って考え込んでしまった。表情は明らかに険しい。驚いた顔が見られたのは僥倖ぎょうこうだが、この思い詰めた様子、プラスの反応とは言い難い。

 

(しまった……っ!! もしかして、がっついて引かれちゃった!? 女性に言い寄られるのが嫌って言ってたものね!? 私の馬鹿っ! 裏を読み過ぎたのがいけなかったのよ。流石、高難易度攻略対象、一筋縄ではいかないわ。でも、このまま嫌われてしまうなんて嫌……っ!)



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