八章②
息を飲んで見つめる先で、「まったく!」と抹茶パフェに乗った苺を食べながら、シルヴィアが憤慨する。
「このわたくしが、補修授業だなんて! まだデザイン待ちのドレスが山のようにありますのに!」
「自業自得ですよ、シルヴィア嬢。貴女の才能には感心しましたが、学生である我々の本分は勉学です。私も付き合いますから、頑張りましょう?」
「べ、別に、付き合っていただかなくても構いませんわ! わたくしに構っている暇があるのなら、ひとつでも多くのサマーパーティーに出席なさいませ! 殿下が顔を出すというだけで、仕立てるドレスの値段が跳ね上がるのですから!!」
「……」
これは酷い。
ツンデレニーズを担うシルヴィアは、まだデレのデの字の濁点すらも見せていない有様だ。
しかし、レオンハルトは気を悪くする様子もなく、ちょっと考え込み。
「……なるほど。サマーパーティーは貴族たちがメンツを張り合う場。加えて、王が病に伏せっておられる今、皆が私に取り入ろうと躍起になっている。私が参加すれば、彼等はいつも以上にパーティーに私財を投じ、低迷している景気が回復するという狙いですか。シルヴィア嬢には商才がありますね」
「ーーっ! そ、そんな世辞、今更すぎて嬉しくありませんわよっ!」
確信を突かれて赤面するシルヴィアを、興味深そうに見つめるレオンハルト。二人の様子に、私は小さくガッツポーズした。
(上手くいったわ!! レオンハルトくんにだけ特別に出した〝夏休みの宿題〜シルヴィアのツンデレ語翻訳問題集〜!! あれを解けば、どんなツンデレ語でも真の意味を理解できるはずよ!!)
問題集には、ゲーム内に出てきたシルヴィアのツンデレ発言をすべて書き記してある。
ちなみに、「そんな世辞、今更すぎて嬉しくありませんわよっ!」の答えは、「はっきり言われると恥ずかしいですわ! ……でも、貴方に言われると、ちょっぴり嬉しいかも」ーーだ。
(シルヴィアは誤解されやすいだけで、本当はとても優しい子よ。レオンハルトくんがそのことに気づけば、二人の不仲は改善される。ドレスのことを知って以降、呼び方も〝シルヴィア嬢〟になったし。あとは、ベオウルフ公国のサマーパーティーでド派手なドレスを着ることさえ阻止すれば、凄惨なバッドエンドは回避できるはず! よし、シルヴィアがパーティーに誘われる前に、シンプルなドレスの魅力をたっぷり伝えてーー)
「そうだ、先生。二週間後、俺たちの故郷のベオウルフ公国の建国二十年を祝うサマーパーティーが開かれるんだが、先生も是非来てくれないか?」
「いきなり来たあーーーーっ!!」
全力でつっこんでハタと気がつけば、アルベルトが机の向こうで目を白黒させていた。
ーーしまった。
「ごごごめんなさい! い、いきなりパーティーに誘われるなんて思ってなくって……!」
「いや、まずは公国から正式な招待状が届くのを待つべきだったな。プリシラが早く誘いたいと強請るものだから、つい」
「アルベルトお兄様だって、そう仰られていたではないですか!」
頬を膨らませるプリシラに、そうだったか、ととぼけるアルベルト。以前よりも和気藹々と仲の良い二人の隣で、セオドールがふんわりと微笑んだ。
『……そのサマーパーティーは、ドラゴニア竜王国との共催なんだ。マリンローズ先生には、ボクの危機を救ってくれた大恩がある。本来なら、母国に招いて御礼を申し上げるべきなんだけど、すごく遠い上に、魔素の濃度の違いからか、他国の人間は時間感覚が狂ってしまうんだ。ドラゴニアで一日過ごしたら、外では十日以上経っていたこともあるみたい。それで、アルベルトに相談したら、一緒にお礼の宴を開こうって……』
「本当に竜宮城そっくりなのね。ーーあれ? 建国二十年を祝う節目の祝いなんじゃないの? 今の話だと、まるで私のために開かれるみたいね」
『……あ』
「セオドール……! それは言うなとあれほど言っただろうが!」
「実は、その両方のための催しなのです……騙すような真似をして、申し訳ございません。先生はパーティーはお嫌いだと伺ったので、主役だとわかれば、参加していただけないと思ったのです」
ペタリと白い耳を伏せ、可愛らしく尻尾を下げるプリシラに、私は気にしないでと即答する。
胸中のマリンローズは嫌がるかと思ったが、気持ちは温かい。彼等が私のために心を砕いてくれたことが、なによりも嬉しかった。
「三人とも、お気遣いありがとう。私のために開いてくれるんだから、喜んで参加させてもらうわ。アルベルトくんとプリシラ姫の生まれた国を見てみたいもの」
「本当か!? なら、国をあげて歓迎する。先生はプリシラを救ってくれた大恩人だからな!」
あどけない少年のような笑顔を浮かべるアルベルトの側に、金色のパラメータがパッと現れる。
アルベルト・ベオウルフ(17)
【好感度】 15→100
学力 120→130
魔力 150
強さ 200
リッチ度 120
流行 80
可愛さ 80→90
「ガーデニアの精霊と和解して以来、あれほど続いていたいやがらせがピタリとやみました。それに、シルヴィア様が仕立ててくださったドレスがクラスでも好評で、一緒にお茶会ができる友人もできたのです。本当にありがとうございました、マリンローズ先生……!」
プリシラ・マリア・ベオウルフ(17)
【好感度】 30→100
学力 150→160
魔力 30→100
強さ 50
リッチ度 120
流行 80→120
可愛さ 150→180




