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八章① リメイクされた乙女ゲームの断罪イベントを攻略しようと思います!


 ミーン、ミーン、と蝉が鳴く。


 快晴の青空に映える入道雲。〝プティ・アンジュ〟のベランダの下では満開の向日葵が揺れている。


 プリシラへのいやがらせの犯人は、無事に突き止めた。


 これで誘拐されて惨殺されることも、復讐の鬼と化したアルベルトがクーデターを起こすことも、全員揃って斬首刑に処せられることもないはずだ。


 セオドールもポーション生活を改め、毎日三食の健康的な食事プラス、アンジェリカが体力増強の魔法付与を施した絶品ドラゴニアスィーツまでしっかり食べているのだから、自室で餓死する心配もないはずだ。


 そう、ないはずだ。


 新プリでリメイクされた二人のプリンスの凄惨なバッドエンドは、無事に回避できたーーはずである。


 爆発しそうな心臓を抱えて迎えた、夏休み初日の今日。


 アンジェリカの協力のもと〝プティ・アンジュ〟を貸し切って新プリキャラたちを集めた私は、授業を無断欠席した分の補修授業を行なった。


 無論、目的はアルベルトとセオドールのバッドエンドが回避できたかどうかを、この目で確かめるためだ。


 極度の緊張と不安のあまり、ここ数日は眠れなかった。テーブルに顔を揃えた彼等の姿を見た瞬間、私の涙腺が崩壊したのはいうまでもない。


「よがっだわ……っ! みんな元気に夏休みを迎えられて、本当によがった……っ!!」


「みなざんっ!! ごちらの『パフェ・アラモード』は、師匠とわたじからのお祝いでずっ! どうかみなさんで、めじあがっでくだざいぃっっ!!」


「メルリーヌ女史、アンジェリカ嬢……お心遣いは嬉しいのですが、そこまで号泣するほどのことですか?」


 怪訝に首を傾げるレオンハルト。


「こら、目を擦るな。真っ赤になっちまうぞ、子ウサギちゃん?」


 不意打ちの『子ウサギちゃん』にますます号泣する私に、苦笑いを浮かべてハンカチを手渡してくれるアルベルト。


「わあっ! なんて煌びやかなスィーツなのでしょう……! 硝子のシャンパングラスに盛られたスィーツなんて、初めて見ましたわ」


 純白の尻尾をフリフリ、山積みの宝石のような抹茶フルーツパフェに目を輝かせるプリシラ。


『……すごく美味しい! ドラゴニアの抹茶は苦味が強いのに、生クリームやアイスクリームに混ぜるとこんなにまろやかになるんだね。ーーあっ! 底にわらび餅まで入ってる!』


 好物のドラゴニアスィーツをまとめて堪能できることに大満足のセオドール。

 

パフェ・アラモード(完璧な流行)だなんて、名前まで美しいですわ! アンジェリカ。このスィーツ、わたくしの主催するサマーパーティーで振る舞ってもよろしくてよ! 平民出の貴女には、身にあまる光栄でしょう!」


 名前を売るチャンスを与えてあげようという好意を、大変わかりにくく高飛車に言い放つシルヴィア。


「あははっ! お褒めに預かり光栄です! ドラゴニアスィーツは国内のみならず、近隣諸国からの観光客からも大人気なんですよ! ちなみに、この抹茶パフェに使ったフルーツは、私の故郷のブライトナー産です。師匠が私財を寄付してくださったおかげで、果樹園を襲っていた魔物を討伐できたんですって!」


 大きくなったお腹をさすりながら、幸せそうに微笑むアンジェリカ。


 彼等が一人も欠けることなく、この場所にいること。


 笑顔でテーブルを囲み、アンジェリカのスィーツを心から楽しんでいること。


 私にとっては、この瞬間がなによりのトゥルーエンドだ。


 ーーだが、回避しなければならないバッドエンドは、あと二つもある。


 私は、ブライトナー産の瑞々しい水蜜桃を口に運びながら、問題の二人を盗み見た。


 シルヴィアのハードモードルートの情報はない。しかし、アンジェリカはレオンハルトルートに関わるシルヴィアの末路を思い出してくれた。


 レオンハルトルートでは、ヒロインとの仲が親密になるにつれ、シルヴィアと不仲になる。


 そして、彼等の間に大きな亀裂を作るのが、ベオウルフ公国主催のサマーパーティーで起きる大事件だ。


 ベオウルフ公国建国二十年の節目を祝う特別なパーティーで、シルヴィアはプリシラの友人として招かれたヒロインに負けるまいとド派手なドレスをまとって現れる。


 しかもそれは、アストレイア王国やベオウルフ公国と長年紛争状態にあったベスティア獣王国で流行中の、分厚い絹地に金糸の刺繍を隅々にまで施した贅沢極まりない代物だった。


 シルヴィアはアストレイア王国の次期国王レオンハルトの婚約者だ。未来の王妃が、和平を結んだとはいえ元敵国側につくようなドレスを着たことで場は混乱し、レオンハルトは激怒。


 彼はシルヴィアをダンスに誘うことなく、姿をくらませてしまう。


 その後、心配して探しに来たヒロインと、中庭でこっそりダンスを踊ってくれるという胸キュンイベントがあるのだが、キュンしている場合ではない。


 この大事件をきっかけに、レオンハルトとシルヴィアの関係は修正不可能となり、ヒロインとどんなエンドを迎えようが、シルヴィアは卒業パーティーで断罪され、身分剥奪の上、国外追放されてしまうのだ。


 これをもとに、今までの凄惨なバッドエンドを踏まえてシルヴィアのハードモードシナリオを予測してみた。


〝サマーパーティーでの大事件をきっかけに、ベオウルフ公国との間に争いが勃発。混乱に乗じたベスティア獣王国が両国に攻め込み、アストレイア王国は滅亡。シルヴィアは捕らえられ、斬首刑に処せられるーー〟


 間違いない。


 シルヴィアルート攻略の鍵になるのは、レオンハルトとの不仲だ。


 私はクイ、と眼鏡のブリッジを押し上げた。


(ーーしかし! すでに手は打ってあるわ。レオンハルトくん、〝あの宿題〟はもうやってくれたかしら……)



 

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