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七章⑨


「なにっ!?」


「なんですって!?」


「は、犯人が、わかったのですか……!?」


『……すごい、流石はマリンローズ先生だね!』


「メルリーヌ女史、一体、誰が犯人なのです!?」


 わっ! と寄ってたかって、皆がいっせいに詰め寄せる。


 最近、この世界に慣れすぎて忘れかけていたが、彼等は皆、新プリの新装キャラクターたちだ。その麗しい限りの総立ち絵に囲まれて、幸せのあまり心拍数が急上昇する。


「ま、待って! 色々と待って! い、今から、それを確かめに行こうと思うの。みんなも一緒に来てもらっていいかしら?」


 彼等は揃ってうなずき、私は皆を引き連れて王族寮を出て、裏庭の奥にある精霊の樹までやって来た。


 雨は降り止み、辺りには甘い香りが立ち込めている。


「なるほど……これが問題の、〝何者かに壊された花壇〟なのね?」


 そうだ、とアルベルト。樹の周りを囲むように作られていた紫陽花の花壇が、無惨にもぐちゃぐちゃに潰されている。


「この場所に連れて来たということは、現場検証でもするつもりなのか?」


「いいえ。まずは、シルヴィアさんの疑いを晴らしましょう。花壇がこんなになるまで荒らせば、靴やドレスが泥だらけになるわ。誰よりも身だしなみに厳しい彼女が、ドレスを汚すような真似をするとは思えない。シルヴィアさん、さっきは答えてくれなかったから、先生が当てましょうか? 貴女はここに、染料となるガーデニアの実を取りに来たのね?」


「どうしてそれを!? ……ええ、その通りですわ。ガーデニアの実は鮮やかな黄の染料になりますの。サマーパーティーに向けて、爽やかな夏の青空に映える、レモンのようなドレスが作りたいと思ったのですわ」


「ドレスを作りたい……? しかし、それなら黄色い布地を買えばよいのでは?」


 怪訝な顔のレオンハルトに、シルヴィアはギクリとわかりやすく狼狽した。彼女がドレスのデザイナーとして一世を風靡していることは、レオンハルトには内緒なのだ。


「き、規制のものでは飽き足りませんの! 私が纏うのですもの、誰よりも鮮やかな黄色でなければ!」


「はっ! いかにも派手好きのお前らしい理由だな。だが、ガーデニアの実は秋にしか実らない。嘘をつくのも大概にしろ!」


「ーーっ! 本当に失礼な方ですのね!!」


「待って、アルベルトくん。確かに、普通のガーデニアは秋にしか実をつけないし、初夏にしか花を咲かせない。ーーでも、この木は〝精霊の樹〟よ。だから、季節に関係なく花が咲くし、実をつけるの。貴女がプリシラ姫に贈ったドレスを破かれたのは、真冬だったわよね? でも、ドレスからはガーデニアの香りがした。それは、真冬でも大輪の花が咲いていたからなんでしょう?」


「それは……」


 口ごもるアルベルトの代わりに、プリシラが首肯した。


「お兄様が贈ってくださったドレスを着てここに来たとき、この木は雪と見紛うほど満開の花を咲かせていました。でも、まさか本当に精霊が宿っているだなんて……」


「待て、プリシラ。狂い咲きしやすい大樹が〝精霊の樹〟と呼ばれることはよくある。だが、本当に精霊が宿っている樹なんて滅多にないぞ」


「ところが、この樹は本物なのよ。この国随一の魔法士である私が言うのだから、間違いないわ」


 そう断言したとき、シルヴィアがあっと声をあげた。どうやら、彼女は気がついたようだ。


「まさか……っ!? メルリーヌ女史は、このガーデニアの樹に宿る精霊が、くだんのいやがらせの犯人だと仰るつもりですの!?」


「その通りよ、シルヴィアさん。実は……私は、ついさっきまでシリウス様に招かれて貴女の屋敷にいたの。それで、その、別邸の中庭にある、精霊が宿る白薔薇の木を見せてもらったときに、その可能性に気がついたのよ。精霊たちは、自分たちの住処を荒らされることを嫌う。だから、庭はあまり手入れができないし、あそこでお茶をするとお菓子がなくなったりするのよね?」


「別邸の中庭……。ーーっ!? あああ貴女っ!? わたくしのアトリエに無断で立ち入りましたのっ!?」


「無断ではないわ! ちゃんとシリウス様にお招きされて入ったもの!」


「すまないね、シルヴィア。兄として、可愛い妹が犯人呼ばわりされるのが我慢ならなかったのだよ」


 シリウス兄様は申し訳なさそうに言いながら、懐から分厚い紙の束を取り出して、プリシラに手渡した。


「シルヴィアが貴女のために考案したドレスのほんの一部ですよ。これで、彼女への疑惑を解いていただけると嬉しいのですが」


「お兄様の裏切り者おおおーーーーっっ!!」



 

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