七章① リメイクされた乙女ゲームの推理パートを攻略しようと思います!
「どうしよう。まさか、ここまで手かがりが見つからないなんて……!」
犯人不明のまま、さらに数週間が経ってしまった。
夏休みまであと七日。
明日からは、いよいよ期末テストが始まる。それが終われば、本当に後がない。今日の授業を終えた私は、ただ焦るままに学園中を走り回っていた。
アルベルトとプリシラに話を聞いた日以降、聖獣暴走事件の被害に遭った令嬢たちをはじめ、生徒たちや学園の関係者たちに改めて聞き込みをしているのだが、犯人を目撃した者は見つからない。
特に、シルヴィアの取り巻き令嬢たちは、必死になって庇うばかりだ。
彼女がプリシラのドレスを破いたりするはずがない、と。
私だって、そう信じたい……でも。
(〝プリンス&プリンセス〜恋からはじまる学園生活〜〟には、四人の攻略対象が存在する。一人は、完璧美形王子レオンハルト・ジーク・アストレイア。二人目は、俺様獣人王子アルベルト・ベオウルフ。三人目は癒し系竜人王子セオドール・ドラゴニア……そして、残る最後の一人が)
悪役令嬢シルヴィア・フレースヴェルグ。
女性キャラクターである彼女が攻略対象の一人になったのには、プリプリが発売された当時、前世の世界に巻き起こっていた空前のツンデレブームが影響している。
ツンデレとは、表面的にはツンツンと素っ気ないが、内心ではデレデレに惚れている、そんな不器用さが魅力のキャラクターだ。男性キャラクターではアルベルトがそのニーズに応えたが、女性キャラクターにも是非ツンデレを、と生み出されたのが、後に伝説の悪役令嬢としてその名を轟かせたシルヴィアなのである。
プリプリのシルヴィアルートは、恋愛エンドこそないものの、恋と友情との濃密な板挟みが楽しめる。
入学式典のあと、噴水広場で出会ったレオンハルトに一目を置かれるようになったヒロインは、彼の婚約者であるシルヴィアに執拗に絡まれるようになる。
しかし、たび重なるいやがらせにも負けず、果敢に努力を続けるヒロインの姿に、シルヴィアは彼女をライバルと認め、いつしか二人の間には、熱い友情が育まれていくのだ。
(最終的には大親友になるのよね。シルヴィアとレオンハルトを同時に攻略すると、恋を叶えるか、親友の幸せを望むかで揺れるシナリオがとても切ないわ。到達するトゥルーエンドは二種類。レオンハルトとの結婚式を介添人のシルヴィアに見守られるか、レオンハルトとシルヴィアの結婚式を介添人として見守るか……後者の場合、ヒロインはフレースヴェルグ家の養女として迎えられるから、二人は本当の姉妹になって、末長く幸せに暮らすのよ。現状、アンジェリカは戦線離脱しているから、シルヴィアを邪魔するライバルはいない。このエンディングみたいに丸く収まって、レオンハルトと幸せになってくれたらいいんだけど……)
だがしかし、私が実体験しているのはハードモードだ。シルヴィアと初めて出会ったときに彼女のパラメータを見たが、外見がファッショナブルになっただけでなく、性格も能力値も大きく改変されていた。
だから、プリシラへのいやがらせが、シルヴィアのハードモードルートのシナリオ通りだとしたら、彼女が犯人である可能性も充分に考えられる。
現に、シルヴィアを庇うのは取り巻きの令嬢たちだけで、学園内には彼女を疑う声が高まりつつあるのだから。
「でも、それを確かめる術がない……! 頼みの綱のアンジェリカはシルヴィアのルートは未攻略だと言っていたし、アルベルトのルートも知らないから、彼女がどう関係しているかわからない。シルヴィア本人に話を聞こうとしても、学園の寮にすらいないみたいだし……本当に、どうすればいいの……!?」
それに、仮に出会えたとしても、素直に話をしてくれるとは思えない。〝宿題のプリント〟は放棄されているから、シルヴィアとの【信頼度】は0のままだ。
彼女の心を開いて悩みを聞くには、高い《リッチ度》と《流行》が必要だが、私の財産は元婚約者の領地復興に寄付してしまったし、《流行》をあげるには『お茶会』や『パーティー』に招かれなければならない。
だが、パーティーシーズンを待っていたら、夏休みが始まってしまう。
「ーーそうだ! 誰かに代わりに話を聞いてもらえばいいのよ! シルヴィアの婚約者のレオンハルトくんなら、力になってくれるかもしれないわ!」
藁をも掴む気持ちで、生徒会室へと走った。
レオンハルトの出席率はまちまちだが、今日は授業に来てくれていたはずだ。
そう考えていた矢先、長い廊下の先に、生徒会室から出てくる彼の姿を見つけた。
「いた……! レオンハルトくん、ちょっといいかしら!」
「メルリーヌ女史? どうされました、そんなに慌てて」
「貴方に折り入って頼みがあるの! 私の代わりに、シルヴィアさんから話を聞いてもらえないかしら!? 二年の末に起きた、聖獣の暴走事件についてなんだけどーー」
そう口にした瞬間、レオンハルトはにわかに表情を曇らせた。
「……貴女も、彼女を疑っているのですか」
パッと、彼の側にパラメータが現れる。しかし、それはいつものように金色の輝きを放つことはなく、暗い鈍色にくすんでいった。
レオンハルト・ジーク・アストレイア(17)
【好感度】 80→30
学力 200
魔力 180
強さ 180
リッチ度 200
流行 150
可愛さ 150
「【好感度】が……!? レ、レオンハルトくん、待って! 違うのよ、私はただーー」
「わかっております。確かに、この学園におけるフレースヴェルグ嬢の素行は感心できるものではありません。メルリーヌ女史がお疑いになるのも、仕方のないことと存じます」
普段よりも丁寧な口調で、レオンハルトはにっこりと微笑んだ。
だが、それはセオドールが部屋の前に築いた魔法結界を思わせる、拒絶に満ちた笑顔の壁だった。
「しかしながら、明確な証拠もないのに公爵令嬢である彼女を疑えばどんな危険を招くか、貴女もご存知のはずです。ーー学園内で起きた生徒同士のトラブルは、学園内で解決することが原則です。しかし、あの事件は事が大きすぎた。そのために、かねてから公爵家に敵意を抱いていた有力貴族たちが、フレースヴェルグ嬢を犯人に仕立て上げ、すべての責任を公爵に負わせようと企てているのですよ。これ以上、政局を荒立てるわけにはいきません。不用意な詮索は控えていただきたい」




