六章⑦
『……アルベルト王子。二年の末の事件のことは、ボクの耳にも届いているよ。先生が下した処罰のこともね。厳しいことを言うようだけど、キミのそれは逆恨みなんじゃないかな……?』
「セオドール王子……。なら、俺も言わせてもらうが、魔法大国の王子と属国の俺たちとは扱いが違うんだ。成長期の一件といい、優遇されてるアンタになにを言われても説得力がねぇ!」
『……優遇?』
ふ、と浮かべていた笑みを消し、セオドールは紅玉の瞳を光らせてアルベルトを見つめた。静かで、感情のこもらない無機質な声音だ。
『……もし、聖獣を暴走させたのがボクなら、問答無用で強制送還されて、十年は幽閉されていたはずだよ。母国は、そういうことにはとても厳しいからね』
「な……っ!?」
「じ、十年も……」
『…… ドラゴニアは争いを忌み嫌う。反対に、和解はなによりの美徳とされているんだ。恨んだり、怒ったり、意地を張り続けることは簡単だけど、自分の行いを省みて、相手に謝罪するのは、とても勇気がいることだからね。マリンローズ先生は、キミたちと和解しようと一生懸命なんだよ。さっきだって、雨に濡れるのも構わずに、プリシラ姫を探していた。ボクは、ドラゴニアの王子として先生の力になりたい……』
言いながら、セオドールは私の額に手のひらをかざした。天気雨に濡れ、しっとりとしていた髪や服から水滴が生まれては宙に浮き、集まって、ひとつの水球になる。
セオドールの手のひらの上でパッと弾ける頃には、髪も服もすっかり乾いていた。
「あ、ありがとう……セオドールくん」
『……どういたしまして』
「ーーっ! 納得できねぇな……! メルリーヌ女史、アンタは俺に謹慎処分を下す際、必死で追い縋ったプリシラの言葉に耳を貸そうともしなかった! それを、今更、話をしたいだと!? ふざけるなっ!!」
ダンッ! と机上を打ち、アルベルトが席を立つ。
「ア、アルベルトくんが怒っているのはそこ……っ!? 下した処分が不服なんじゃなくて、私がプリシラ姫の言葉を聞かなかったことを恨んでるの!?」
「当たり前だ!! テメェの落とし前はきっちりとらせてもらう。十年だろうが百年だろうが、謹慎でも幽閉でもされてやる!! だが、泣き縋るプリシラを無視するとはどういう了見だ!? この薄情女が!!」
「お、お兄様……! 落ち着いてくださいませ。いくらなんでも、メルリーヌ女史に失礼かと……!」
(なるほど……っ! 新プリではアルベルトの兄貴肌が重度のシスコンという形で反映されているのね……! で、でも、どんな形であれ、アルベルトくんの気持ちが聞けてよかったわ)
私は深く息をつき、胸中のマリンローズの意思を感じながら言葉を紡いだ。
丁寧に、心を込めて。
「アルベルトくん……実は、私もそのことをずっと謝りたかったの。あのときの私は、貴方たちの言葉を無視しすぎた。勿論、意図があったのだけど、もっと早くに話をすべきだったわ。誤ちを反省するより、私への恨みを募らせてしまっては、謹慎処分を下した意味がないもの」
「意図だ……? プリシラの言葉を無視したことに、意図なんざあってたまるか!!」
「彼女の話を聞けば、処分に忖度が働いたと思われてしまうでしょう。公国の王子だから、処罰を緩和したのだとね。そうなれば、被害を受けた令嬢たちの親ーーこの国の高位貴族たちを敵に回すことになるわ。彼等は、貴方が公国の王となったとき、その立場を揺るがしかねない。だから、問答無用で厳罰に処したという事実が必要だったのよ」
「……っ! そ、そんなこと、今まで一言も……」
「言わなかったわ。それが、大きな間違いだった。どんな手を使ってでも内密に話し合って、理解し合った上で反省を促すべきだった。私の未熟さのせいで貴方たちを苦しめてしまって……本当に、ごめんなさい」
頭を下げる私を、アルベルトとプリシラがどんな顔で見つめていたのかはわからない。
しかし、ふたたび顔を上げたとき、プリシラは大きな瞳いっぱいに涙を溜めていた。
その側にパラメータが現れ、金色の光を放つ。
プリシラ・マリア・ベオウルフ(17)
【好感度】 0→30
学力 150
魔力 30
強さ 50
リッチ度 120
流行 80
可愛さ 150
「謝罪など……なさらないでください! 全部、わたくしが悪いのです。一国の王女でありながら、学園に馴染むことができず、友人すら作れない……。わたくしが至らないせいで、お兄様が……!」
「プリシラ、それは違うと言っただろう……!! ーー話はわかった。メルリーヌ女史、アンタの謝罪を受け入れる」
「ありがとう……!」
「喜ぶのは早い。アンタは事件の話を聞きたがっていたな。だが、俺たちから話を聞いたところで、せっかくできた新しい婚約者の妹を罰することができるのか?」




