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六章③


(プリシラ姫と話をしたくても、アルベルトくんが特例で護衛兵を付けて守っているせいで、近づけないのよね。こうなったらもう、ゲームのイベントの力を借りるしかないわ……!)


 特に、私に対する警戒が一番厳しい。


 プリシラに少しでも近づこうものなら、アルベルトが自ら駆けつけて、問答無用で追い返されてしまう。


 あれこれ方法を考えるうちに、今度は中間テストやら期末テストの準備に追われてしまい、二ヶ月あったはずの猶予はあっという間に半分になってしまった。


 夏休みまでのタイムリミットは、刻々と迫っている。


 だが、いくら焦ってもイベントは発生してくれない。毎日、放課後に精霊の木のある庭へ通っても、まだプリシラとは出会えていないのだ。


 ーーアルベルトルートで発生する、プリシラの出会いイベントはこうだ。


 魔法士学園に入学したものの、平民出身だといやがらせを受けるヒロイン。ある日、タチの悪い貴族の子息たちに絡まれて、ドレスを破かれそうになる窮地ピンチにアルベルトが駆けつける。


 彼は子息たちを蹴散らしたあと、『可愛い子ウサギちゃんに泣き顔は似合わないぜ? これでも食って元気出しな』と、お菓子の包みを手渡すのだ。


 中身はウサギの形をしたクッキーで、男らしい外見に似合わず、なんて可愛いお菓子を持参しているのかとギャップに悶えたものである。


 そして、紫陽花が咲き誇る梅雨の季節。精霊の木のある裏庭の外れに迷い込んだ主人公は、半獣人の王女、プリシラと出会う。彼女は独りで手作りのクッキーを食べているのだが、それは、以前アルベルトにもらったクッキーと同じ物だった。ヒロインはプリシラがアルベルトの妹であることを知り、二人は友達になる。


 その後、仲良くなったプリシラとともにお菓子を作り、助けてもらったお礼だとアルベルトに手渡すことで、恋が芽生えていく。


(なにが萌ゆいって、アルベルトが本当は甘いものが苦手だという一点に尽きるわ! でも、可愛い妹の手前言い出せない。プリシラ姫は〝お兄様は甘いものが大好き〟だと思い込んでいて、アルベルトはプリシラ姫の幸せをなによりも一番に望んでいるから、ヒロインが彼の嗜好に気がついたときも、『いいな、子ウサギちゃん。このことは絶対に、プリシラには秘密だぞ』『はい! 二人だけの秘密ですね?』『ふ、二人きり……!? おかしな言い回しをするんじゃねぇ。恥ずかしいだろうが……!』ーーという、お決まりのやりとりをして、甘いものが苦手なことは絶対に秘密だと約束するの。でも、シナリオ後半、兄妹が本当にわかりあうために、ヒロインはついに、アルベルトの甘いもの嫌いをプリシラ姫に告白しなければならなくなるのよ……!)


 ーーそう。


 アルベルトルートはプリプリの中でも、一番ほのぼのとした可愛らしいシナリオなのだ……!!


 それを、どこをどうリメイクしたら、妹誘拐惨殺からの親殺しクーデターからの皆殺しデッドエンドになるのか。


 私のほのぼのまったりモフモフキュンを返して欲しい。


 ちなみに。


 アンジェリカがセオドールのハードモード攻略時に、アルベルトのバッドエンドを確定させてしまったのは、この梅雨の時期に起きるプリシラとの出会いイベントをスルーしてしまったのが原因らしい。


 普通、ハードモードは三年目までに攻略キャラとの出会いイベントを済ませておけば発生しない。しかし、アルベルトに限っては違う。


 なぜなら、彼の悩みはプリシラだからだ。


 双子の彼等は二人で一人。アルベルトの通常ルートを攻略する際も、プリシラの【好感度】をあげなければイベントが発生しないほどだ。よって、彼のハードモードの発生を防ぐには、アルベルトだけでなく、プリシラとの出会いイベントも済ませておく必要があった。


 しかし、アンジェリカはセオドールの魔法結界を解くのに必死になっていて、プリシラと出会わないまま三年目の夏休みに突入。結果、凄惨なデッドエンドを迎えてしまったというわけだ。


 アルベルトルートはとことんプリシラがキーパーソンとなる。


 彼女と仲良くなって心を開き、彼女の抱える悩みを解決することが、アルベルトの悩みを解決することに繋がるのだ。


「今日こそ、精霊の木の下にいて欲しいわ。プリシラ姫に話しかけて、〝プティ・アンジュ〟に誘い出すの。彼女が大好きなお菓子で心を開いて、事件の詳細を聞き出す作戦よ!!」


 そう、プリプリ伝家の宝刀、〝プティ・アンジュ〟での放課後デートを利用するのだ。


 〝宿題のプリント〟に『お手紙』の効果があったように、これにもきっと、【好感度】上昇の効果があるはずだ。


 なによりも、この私ーーマリンローズには、プリシラときちんと向き合って話しをする必要がある。


 アルベルトを謹慎処分に処した際、恩赦おんしゃを求めるプリシラの必死の懇願に、過去のマリンローズは一切耳を貸さなかった。勿論、彼女なりの考えに基づいてのことだが、その意図をきちんと伝えずに、理解を得ないまま罰だけを与えてしまった。


 それでは逆恨みされてしまうだけで、生徒たちが得るものはなにもない。


 わだかまりが残っているなら尚更だ。



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