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六章②


 申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。彼の外見は、ふたたび変化していた。成熟した大人の男性でも、幼い少女のような姿でもない。同級の生徒たちと同じくらいの年端の、美しい青年の姿だ。


(これならクラスの皆にも馴染めそう……! それに、部屋から出て、授業にまで来てくれたわ! これで、セオドールくんのバッドエンドは回避できたのね)


 喜びと安堵で、胸がいっぱいになる私の前を通り過ぎ、セオドールは前列の窓際に着席した。


『……あれ? レオンハルト王子と、アルベルト王子の姿がないみたいだけど』


「レオンハルトくんはご公務。アルベルトくんは……個人的な鍛錬で、魔物討伐に行っているわ」


 ちなみに、シルヴィアも相変わらず不登校だ。取り巻きの令嬢たちは、大半が出席してくれるようになったのだが。


『……魔物討伐? もしかして、ボクの食事の食材集めのせいで、授業に出られないの……?』


「ち、ちがうの! 色々あってね、早い話が登校拒否なのよ。原因は私にあるから、無理矢理に出席させるわけにもいかなくて。どうすればいいか、悩んでいる最中なの」


 教室の生徒たちにも思うところがあるようで、なんとも気まずい雰囲気が漂った。


 セオドールはしばし考え込んでいたが、おもむろに席を立つ。


『……マリンローズ先生。ボクも今まで、貴方に心配をかけてしまっていたよね。お詫びに、その問題はボクに解かせてくれないかな?』


「セオドールくんに? ええ、是非お願いするわ」


 セオドールは前に出て、長い指の先でーー彼の爪は、髪と同じ翡翠色をしているーー宙に浮かんだ魔法陣をなぞった。欠けていた箇所が見る間に埋まり、さらに、二重、三重と複雑な陣で囲んでいく。


『……麗しき水の精霊たちよ! 竜人族が皇子みこ、セオドール・ドラゴニアの名において命ず。集いて歌え、舞い踊れーー〝サラスヴィアティー〟!!』


「ーーっ!?」


 詠唱とともに魔法陣が蒼い光を放ち、魔素から変換された水属性の魔力が洪水のように噴き出した。


 教室は一瞬にして、深い水の底に飲み込まれる。


 息ができるのは、これが本物の水でなく、密度ゆえに可視化した魔力だからだ。蒼く煌めく水の中を、虹色の薄衣をなびかせて、美しい女神が泳いでいく。


 半身は女神、半身は竜。


 水の高位精霊、サラスヴァティだ。


 彼女が手に持つ琵琶をつま弾くと、その調しらべから色とりどりの魚の姿をした、数え切れないほどの水の精霊たちが生まれた。


 群泳するそれらは飛行体のように、頭の上を過ぎ去っていく。


 生徒たちは初めは驚愕していたが、すぐに笑顔になり喝采をあげた。


「すごいわ、セオドールくん! 水の精霊たちがこんなに……! まるで、竜宮城のようね……!」


『……ドラゴニアの王宮を、竜宮と呼ぶ人もいるよ。魔素濃度の高い国だから、魔素に集まる水の精霊たちの姿が、魚が空を飛んでいるように見えることがある。その幻想的な光景が、ボクは、とても好きだ』


 『少しは、元気になってくれたかな?』と彼。


『……マリンローズ先生。貴女にはいつだって、幸せそうに笑っていて欲しいんだ』


「セオドールくん……ありがとう。おかげで、とっても元気になったわ!」


 照れ臭そうに、はにかむように。


 セオドールは、麗しい笑顔を浮かべた。




            ***




 その日の放課後。


 天気雨の降る裏庭を、私は急いでいた。


 この世界でも、夏の前のこの季節を梅雨といい、まとまった雨が降る。前世の西洋では、むしろカラッとして清々しく、パーティーや結婚式が多い季節だというが、ここでのパーティーシーズンは梅雨明け後だ。王侯貴族が所有する各地の避暑地ーーいわゆるリゾート地で、盛大なサマーパーティーが開かれる。


「ーーでも、今日の雨はジトジトしていなくて、とても綺麗だわ。水の聖獣の加護を持つ、セオドールくんのおかげかもしれないわね」


 見上げた空には、美しい虹がかかっていた。


 召喚術の名残りか、鮮やかな色彩をした水の精霊たちが、魚の姿となって空を泳いでいく。


 精霊は、魔素から生まれた精神体だ。本来、人間の目には見えないが、召喚術を行った場合や、力のある魔法士の中には見える者もいる。無属性である魔素を様々な属性の魔力に変換することができ、魔法士はその力を借りて魔法を行使する。


 聖獣もまた、魔法士の身体に宿る特別な精霊だ。そのため、精霊獣や守護獣とも呼ばれている。


 そして、魔法士に聖獣が宿るように、樹齢が長く、魔素を蓄えた大樹には強力な精霊が宿ることがある。


 裏庭の外れに〝精霊の木〟と呼ばれるガーデニアの大樹があるのだが、その木がまさにそれで、この学園に集まる多くの精霊たちの宿木となっている。


 そこが、ゲーム内でプリシラと出会う場所だ。



 

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