六章① リメイクされた乙女ゲームのデッドエンドを回避しようと思います!
〝愛しのマリンローズ。
ーー愛する君。希少な素材を届けてくれてありがとう。これほど早く集めてもらえるとは思わなかった。本当に、君は敬愛に値する女性だね。
弟子を取ったことにも驚かされたよ。同封されていたレシピを元に、部下に〝ロイヤルプロポリス〟の作成を試みさせたところ、見事に成功したとの報告を受けた。今まで、どの国でも作成に成功した例はない。国家勲章に値する快挙だ。
流石は、愛しい君が見込んだ弟子だね。
僕もぜひ会ってみたいよ。
愛する君に魔法士の才を見込まれるとは羨ましいことだ。彼女は魔法士学園に入学するはずだった少女だと手紙にあったが、もしも、相手が男性であったなら、君への愛しさのあまり、僕は嫉妬と愛憎に狂っていたかもしれない。
ところで、僕が【いにしえの秘境】に赴いた際、天地を貫く美しい雷を見た。愛しのマリンローズ。あの日、君も素材採取にきていたのだね。愛する君にどれだけ会いたかったことか。可愛らしい姿を一目見たくて、急いで近隣を探したが出会えなかった。フォーチュンクッキーの結果が良くなかったせいかもしれないね。
ここだけの話、僕はあまり運が良くないのだよ。
愛する君との出会いを邪魔した、運命の女神を呪い殺してしまいたいよ。
紙面が尽きそうだ。愛しの君、もう少ししたらこちらの仕事に区切りがつくので、無事に帰還した暁には、先の約束を果たしてもらいたい。
愛しい僕のマリンローズ。愛する君を、この腕の中に永久に閉じ込めてしまえる日を夢見ている。
永遠に尽きぬ愛を込めてーー〟
朝一番。フレースヴェルグ家の従者によって教室に届けられた純白の薔薇の花束には、こんな手紙が添えられていた。
愛という単語が十五回。
差出人は、問うまでもなくシリウス兄様だ。
(重い……っ!! しかし、そこがいい!! 圧倒的で濃厚な愛を感じるわ! シリウス兄様は執着系よりの溺愛キャラなのかしら? どちらにしてもいいわ! スパダリ執着系溺愛キャラ、最の高っっ!!)
贈られた大輪の白薔薇は、一人で楽しむのはもったいないほど綺麗なので、教室に飾らせてもらうことにした。
季節は移ろい、教室の窓からのぞく庭には青やピンクの紫陽花が満開だ。薔薇の盛りは過ぎているのに、白薔薇に咲き衰えはない。温室栽培など、特別な育て方がされているのだろう。
初めてこの薔薇が贈られた日以降も、シリウス兄様はたびたび贈り物をしてくださっている。今着ている夏麻のドレスもそうだ。
しかし、セオドールの一件や〝宿題のプリント〟作成で市邸に帰れていないので、直接受け取れず申し訳ないと手紙に記すと、次の日から学園に届けてくださるようになった。
だが、彼自身とはまだ再会できていない。秘境に増加している魔物の状況が深刻らしいのだ。こんなことなら、素材採取に行った日に加勢すればよかった。
せめてもと、贈り物をいただくたびに『お手紙』を返しているのだが、最後に見送った日から、もう一ヶ月以上になる。
(そろそろ、シリウス兄様に会いたいわ……。ーーって、だ、駄目よ、何を考えてるの!! 今は現実逃避している場合ではないわ。アルベルトくんのデッドエンドを回避しないと、クーデターが起きて全員死んでしまうんだから!)
実は今、授業の真っ只中であった私は、斜め上に吹っ飛んでいた思考を慌てて引き戻した。
こうして頭では違うことを考えていても、胸中のマリンローズがオートモードで授業を行ってくれている。
「『ーーでは、この基本定理を踏まえて、水の精霊の召喚魔法陣を完成させてもらいます。希望者は挙手をするように』」
私の言葉とともに、教鞭の先から蒼白い光の線が生まれ、空中に所々が欠けた魔法陣を描いた。円を何重にも重ねた幾何学模様だ。見ようによっては、アラベスクのようにも見える。
出題が難しかったのか、ざわっと、教室が騒めく。
ーーしかし、すぐにそうではないと気がついた。
教室の扉が静かに開いて、ある人物が顔をのぞかせたのだ。
『……おはよう。マリンローズ先生、遅刻してごめんね』
真珠色に輝く角。翡翠色の髪が清水のように、絹衣に咲いた睡蓮の合間をすべり落ちる。
白磁の人形のような面に、神秘的な紅玉石の瞳ーードラゴニア竜王国の竜人王子セオドールは、私と視線が合うとふわりと微笑んでみせた。
「セオドールくん……! 体調はもう大丈夫なの!?」
『……うん。先生とお弟子様が、魔物素材を使った料理を用意してくれたおかげだよ。今日の朝ごはんもとても美味しかった……本当は、一限目から参加したかったんだけど、姿を調整するのに手間取ってしまったんだ』




