五章⑦
(……と、尊い……っ!!)
それは、夢にまで見た新プリ新装プリンスたちの邂逅だった。
万人を燦然と照らす太陽のような、正統派完璧王子レオンハルト。
何者にも屈しない孤高に輝く月のような、俺様獣人王子アルベルト。
大いなる海洋のように壮大な力を持ち、神秘さに包まれた、麗しき竜人王子セオドール。
三者それぞれのプリンスが浮かべる、十七歳の青年らしいはにかんだ表情たるや。
ーー尊い。
思考の全てが、どこまでも果てしなく広がる宇宙空間に放り出されてしまうくらいに尊い……!
(ーーハッ!? 駄目よ! 今の私は彼らの先生なんだから! まだ解決していない問題があるのに、心の宇宙を漂っている場合ではないわ! 仕事よ! 仕事仕事仕事仕事仕事仕事……!!)
「さ、さて! これでようやく、引きこもりの原因がわかったわね。つまり、今のままでは物が食べられないのね? でも、国に連れ戻されるのは嫌だと」
『……うん。我儘なのは、充分わかってる。だけど……体内の魔素量さえ戻れば、今まで通り生活ができるようになるから……できれば、アストレイアが保有しているフルポーションを分けてもらえないかな……?』
「フルポーションですか……」とレオンハルトは口元に手を当て、思案気に呟いた。
「確かに、フルポーションなら宮廷魔法師団が作成に成功したものを保有しております。しかし、先ほどメルリーヌ女史が仰った通り、ポーション類は総じて、体力や魔素量を一時的に回復させるだけの魔法薬です。病を治癒することができないように、ご体調を回復するには不十分でしょう。ドラゴニア竜王国の第一王子に万一のことがあれば、国際問題になります。一度国に戻られた方がーー」
『……』
「ハッ! 友達なら多少の無理難題くらいなんとかしろよ。仮にもこの国の第一王子だろうが?」
「アルベルト王子。仮ではなく、私は正真正銘の第一王子ですよ?」
「二人とも、喧嘩しないの。ーーそうだ! この『わらび餅』はどう? ドラゴニアの食材のように、含有魔素量の多いものなら食べられるんじゃないかしら」
『……あ、そ、そうだね』
『わらび餅』の包みを差し出すと、セオドールは大事そうに受け取った。メッセージカード代わりの〝宿題のプリント〟に目を通し、ラッピングを解いていく。
そうして、硝子の蓋を開けたとき。紅玉の瞳がハッと張り詰めた。
『……これ、本当に『わらび餅』だ! 素材もドラゴニアと同じ……! あの、さっきは、酷いことを言って、ごめんなさい……ボクのために作ってくれたのに』
「いいのよ。それよりも食べてみて。感想が知りたいわ!」
セオドールはうなずいて、添えられていた黒文字の楊枝を取り、『わらび餅』の一つに刺した。きな粉をこぼさないように気をつけながら、美しい所作で口へ運んでいく。
長い髪が邪魔にならないよう、白い爪先で耳の後ろにかけるーーその色のある仕草に、心のスクショボタンを連打したい気持ちをグッと抑えて、反応を見守った。
『………』
目を閉じて、口の中の『わらび餅』をゆっくりと咀嚼していたセオドールだが、ふいにその瞼が開いた。
紅玉石の瞳から、はらはらと透明な雫がこぼれ落ちる。
『……美味しい』
「ほ、本当に? 食べられそう?」
『……うん。吐き気もしない。とても、美味しいよ。ありがとう。マリンローズ先生』
彼が衣の袖で涙を拭ったとき。パラメータが現れ、いつかのように金色の光を放った。
セオドール・ドラゴニア(??)
【好感度】 100
学力 200
魔力 200
強さ 80
リッチ度 180
流行 50
可愛さ 150
ドラゴニア竜王国第一王子。マリンローズの担当生徒。極めて強大な魔力を有する故に、母国では魔王の生まれ変わりと畏怖されている。本人はそういった扱いに不満を持っており、やや厭世的。成長期の訪れにより、以前よりも大人びた姿になった。
(一気に100……!! それに、呼び方もマリンローズ先生って……! 流石はセオドール王子だわ! その【好感度】のあがりやすさから、プリプリファンに天使と呼び讃えられるだけのことはある……!!)
『……すごい。身体中に魔素が満ちていくのがわかるよ。『わらび餅』は、ドラゴニアの夏の風物詩なんだ。初夏の今頃の季節になると、魔素の多い泉にセイントウォータースライムがたくさん現れるから、捕まえて食べる風習がある。すごく、懐かしいよ……』
「喜んでもらえてよかったわ。思った通り、魔素の多い魔物素材を使った料理なら食べられるみたいね。それなら、食事内容を改善しましょう」
『……で、でも、このレベルの魔素量を有する魔物は希少だし、とても危険だよ? 調理ができる料理人だって限られてる。毎日の食事に使うのは無理なんじゃないかな……?』
「大丈夫! 魔物素材を使った料理は弟子の専門分野よ。魔物は私が【いにしえの秘境】で狩ってくるわ!!」
『だ、駄目だよ……!! あそこには魔王の封印石もあるんだ、危ないよ……!』
「駄目です!! 現在、聖女の遺跡周辺には強力な魔物が増加しております! 万一のことがあればどうするんですか!?」
「駄目だ。魔物なら、俺が鍛錬ついでに狩って来てやる。許可が降り次第、公国から腕のいい狩人も派遣してやるよ。ーーだが、調理に関しては女史の案でいいんじゃねぇか? 〝天雷の魔女〟に弟子がいるなんて初耳だけどな」
三人のプリンスに間髪入れず突っ込まれては、反論できるはずもない。綺麗にまとめてくれたアルベルトの案が採用され、私は二度と秘境に足を踏み入れるなと、レオンハルトとセオドールにしっかりと釘を刺されてしまった。
ところで、とレオンハルト。
「私も、女史にお弟子様がおられるとは知りませんでした。どのような方なのですか?」
「アンジェリカという女の子を覚えてる? 入学式の日に、探すのを手伝ってくれたでしょう。彼女、学園の隣の〝プティ・アンジュ〟というカフェのパティシエールだったの。魔法士の才があるのに、既婚者で学園に通えないので、弟子にすることにしたのよ」
「彼女を弟子にしたのですか!?」
「ええ。とても優秀な弟子よ。この『わらび餅』を見れば、彼女の実力がよくわかるでしょう?」
レオンハルトとアルベルトはなんとも言えない渋い顔を見合わせたが、セオドールは深くうなずいた。
『……すごく強力な付与魔法がいくつも施されてる。とても温かい力だ。慈悲深く、世界への愛に溢れている。変わった性質の魔力だね。まるで、ものの本質そのものを強めるような……』
「流石はセオドールくん! 彼女はお菓子作りだけじゃなく、お料理も上手だから期待しててね?」
『……うん。ありがとう、マリンローズ先生。楽しみにしてるね』
ふわり、と睡蓮の花が綻ぶように。
大人びた顔のセオドールが浮かべてくれたのは、前世の記憶にある通りの、優しい微笑みだった。




