五章④
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(夏休みまで、あと二ヶ月あまり。その間に、セオドールくんを部屋から連れ出して、アルベルトくんの妹、プリシラ姫に嫌がらせをしている犯人を見つけ出す……!)
そうすればきっと、二人のバッドエンドは回避できる。
焦りもあるが、同時に安堵もしている。今までは、先の見えない闇の中を手探りで進んでいるような状態だった。
だが、アンジェリカが記憶の糸をたぐり寄せてくれたおかげで、明確な道筋が見えた。やるべきことが見つかったことで、漠然とした不安の闇が晴れたのだ。
前世も現世も、私は教師。
その役目は、生まれ変わっても変わらない。
生徒たちの心に寄り添いながら、一緒に問題を解決する。
自分にできることを探して、一つずつやっていこう。
(今は、セオドールくんにちゃんとした食事を食べさせることが先決よ。大好物のお菓子をきっかけに、食欲を取り戻してくれたらいいんだけど……)
時刻は夕食時だ。寮生たちは食堂に集まり、どの廊下にも人気がなくガランとしている。
しかし、三階に登って、セオドールの部屋に行き着く手前で、二つの声に同時に呼び止められた。
「レオンハルトくん、アルベルトくん。どうしてここに?」
光と闇の対を思わせる出立ちの二人が、並んで立つと迫力がある。特に、アルベルトは彼が起こす凄惨なバッドエンドを知ったばかりだ。金の眼光の鋭さに、思わず身がすくんでしまいそうになる。
彼等はなぜか、バチバチと火花を散らすように睨み合いながら、私の元に駆け寄ってきた。
「メルリーヌ女史! 【いにしえの秘境】にお一人で行かれたそうですね? どうしてそう無茶をなさるのです! アルベルト王子、貴公も貴公だ! たとえ相手がメルリーヌ女史だろうと、あんな危険な場所に女性を置き去りにするなんて!」
「だから、心配するほど弱くねぇっつってんだろ。玄人に下手な護衛は足手まといだ! 温室育ちの王子様にはわからないだろうがな? ーーそんなことより、そいつがセオドール王子の好物か? 差し入れに行くなら、付き合ってやるよ」
「私もご一緒します。友好国の王子がご体調を崩されているのであれば、見過ごせません」
「そ、それはありがたいんだけど……二人とも、雰囲気が悪いわね。喧嘩したの?」
「は? 俺とこいつの仲が悪いのは元からだろうが」
「むしろ、仲良くしていた記憶がありませんね」
いやいや。プリプリでは仲の良い従兄弟同士で、男の子らしい爽やかなライバル関係だったくせにーーとは言えない。
これもリメイク版の呪いだろうか。二人の間に交差する視線は、互いを射殺さんばかりだ。
「二人とも、セオドールくんはドラゴニアの竜人族よ。平和を好み争いを嫌う、世界一温厚な種族なんだから。彼の前で憤ったりしたら、ますます部屋から出てくれなくなるわ。一緒に来てくれるのは嬉しいけれど、仲良くね?」
「……はい、善処します」
「……チッ、仕方ねぇな」
腹黒笑顔のレオンハルトと、仏頂面のアルベルトを連れて、廊下の突き当たりにあるセオドールの部屋の前に立つ。
ノックをすると、少し間が空いてから返事があった。
声は相変わらず低く、日に日に弱々しくなっている。
『……また来たの? ……何度来ても同じだよ。ボクは外には出ないし、食事もポーションでいい……いい加減に、諦めてくれないか……?』
「そう言わないで。今日は特別なお菓子を持ってきたの。『わらび餅』よ。ツルンとして食べやすいから、きっと気に入ってもらえると思うわ」
『……『わらび餅』? …… どうせ偽物だろ。あれを作るのに、どれだけ希少な素材が必要だと思ってるんだ……』
「〝世界樹の種〟、〝セイントウォータースライムの核〟、〝ダークホーネットの黒蜂蜜〟でしょう? 全部、【いにしえの秘境】で採ってきたわ」
『……えっ!?』
「〝ダークホーネットの黒蜂蜜〟は、秘境で出会ったアルベルトくんに貰ったの。それに、セオドールくんが部屋から出てこないのは、引きこもりたいのではなく、なにか原因があるはずだとレオンハルトくんが助言をくれた。二人も今、一緒にいるわ。貴方のことを心配して来てくれたのよ」
『……アルベルト……レオンハルト……ベオウルフとアストレイアの両国の王子が? ……嘘だ。二人とも、社交の場以外では話したこともない。ボクの心配なんてするはずがない……それに、貴女だって、たかが好物のお菓子のために、【いにしえの秘境】なんて危険な場所に出向くはずがないよ……どうせ、お金で手に入れたんでしょう?』
「嘘じゃねぇ。呆れた話だが、本当だ」
「しかも、一人でな」と、アルベルトが口添えをしてくれる。レオンハルトも、すかさず口を開いた。
「セオドール王子。アストレイア王国、第一王子のレオンハルト・ジーク・アストレイアです。メルリーヌ女史が仰ったことは真実です。それに、彼女が毎日届けていた〝宿題のプリント〟も、何週間も教室に泊まり込んで作っておられるのですよ? 貴方のために、女史は力を尽くしておられます。どうか、信じて差し上げてください」




